AkaiKKRで凝集エネルギー(未完)

凝集エネルギーは(ゼロ点振動のエネルギーなどを無視すれば)、凝集状態の全エネルギーと孤立原子の全エネルギーの差で表すことができます。仮に、孤立原子のエネルギーを、結晶の格子定数を大きくしていった極限として見積もることが可能なら、通常の第一原理計算パッケージでも凝集エネルギーを計算できることになります。

今回はAkaiKKR(machikaneyama)を用いてダイヤモンド構造のシリコンの格子定数を大きくしていって、全エネルギーの変化を調べる事により、シリコンの凝集エネルギーを見積もることを試みました。しかしながら、格子定数を大きくするに従って収束させるのが難しくなり、凝集エネルギーとしてリーズナブルな値を得ることはできませんでした。

CohesiveSi.png

Fig.1: ダイヤモンド型構造シリコンの全エネルギーの格子定数依存性。



凝集エネルギー


全エネルギーって何だよ?では、第一原理計算パッケージの出力する全エネルギーと固体物理の熱力学で言うところの凝集エネルギーの関係について書きました。
話の結論としては、全エネルギーは、エネルギーの原点に物理的な意味がないので、凝集エネルギーとは直接比較することができないが、よく似た概念であるということでした。

そこで、凝集エネルギーの原点である孤立原子の全エネルギーを、第一原理計算パッケージで計算しておけば、凝集状態の全エネルギーとの差から、凝集エネルギーを計算できるのではないでしょうか?

CohesiveOsaka2002.png

固体中の原子を引き離していったら…(PDF)で計算されているシリコンの格子定数と全エネルギー


このような試みはosaka2002のテクニカルノートにも見つけることができます(参考: 固体中の原子を引き離していったら…(PDF))。そこで今回は、AkaiKKR(machikaneyama)を用いてダイヤモンド構造のシリコンの格子定数を大きくしていって、全エネルギーの変化を調べました。

計算方法


これまで通り、入力ファイルのテンプレートからシェルスクリプトを利用して連続的に入力ファイルを作成していきます。交換・相関ポテンシャルにはmjwを使いました。これはMoruzzi Janak and Williamsに原子のエネルギーと凝集エネルギーの値が載っている事を意識してのことでしたが、この中にシリコンの値はありませんでした。Osaka2002のテクニカルノートにはスピン分極に関する言及もあるので、スピン分極ありの計算(mag)としました。相対論の効果は考慮せず nrl を指定しています。

c------------------------------------------------------------
go data/CohesiveSi_ABOHR
c------------------------------------------------------------
c brvtyp a c/a b/a alpha beta gamma
fcc ABOHR , , , , , ,
c------------------------------------------------------------
c edelt ewidth reltyp sdftyp magtyp record
0.001 1.0 nrl mjw mag 2nd
c------------------------------------------------------------
c outtyp bzqlty maxitr pmix
update 4 1000 0.01
c------------------------------------------------------------
c ntyp
2
c------------------------------------------------------------
c type ncmp rmt field mxl anclr conc
Si 1 1 0.0 2
14 100
Vc 1 1 0.0 2
0 100
c------------------------------------------------------------
c natm
4
c------------------------------------------------------------
c atmicx(in the unit of a) atmtyp
0 0 0 Si
1/4 1/4 1/4 Si
1/2 1/2 1/2 Vc
3/4 3/4 3/4 Vc
c------------------------------------------------------------


#!/bin/csh -f

## *** プロジェクト名 ***
set PROJECT="CohesiveSi"
## *** 格子定数 ***
set ABOHR_LIST=( 10.26 11.97 13.68 15.39 17.10 18.81 20.52 22.23 23.94 )

## *** 繰り返し計算 ****
foreach ABOHR ( ${ABOHR_LIST} )
## ポテンシャルが存在しなければコピー
if ( ! -e data/${PROJECT}_${ABOHR} ) then
if ( -e data/${PROJECT} ) then
cp data/${PROJECT} data/${PROJECT}_${ABOHR}
endif
endif
## 入力ファイルの作成
sed 's/'ABOHR'/'${ABOHR}'/g' template/${PROJECT}_template.in > in/${PROJECT}_${ABOHR}.in
## 第一原理計算
specx < in/${PROJECT}_${ABOHR}.in > out/${PROJECT}_${ABOHR}.out
## 次のポテンシャルをコピー
cp data/${PROJECT}_${ABOHR} data/${PROJECT}
end


格子定数を大きくするほどバンドの分散が小さくなるので、ewidthも格子定数を大きくするのに従って小さくするほうが収束しやすくなるのだと思いますが、すべての計算で同じ値としました。

結果


Fig.2-3に格子定数 a0 = 10.26 Bohr のときのバンド構造と a = 15.39 Bohr (a = 1.5 a0, a0/a = 0.67)のときのバンド構造を示します。格子定数が大きくなることによってバンドの分散が小さくなっていることが分かります。

CohesiveSi1026.png
Fig.2: ダイヤモンド構造シリコンのバンド構造(a0 = 10.26 Bohr)

CohesiveSi1539.png
Fig.3: ダイヤモンド構造シリコンのバンド構造(a = 15.39 Bohr)


Fig.1に a0 = 10.26 Bohr としたときの格子定数の変化に対する全エネルギーをプロットしたものを示します。格子定数を大きくするほど全エネルギーが大きくなりましたが a = 20.52 Bohr (a0/a = 0.5) よりも大きい辺りから収束させるのが難しくなっていきました。これはbzqlty=4としましたが、bzqlty=9としても同様です。

計算できなくなる直前の値が、ほぼ孤立原子と同じエネルギーになっていると考えると凝集エネルギーは Ecoh = 0.47 Ry (6.37 eV) 程度となります。実験値は Ecoh = 4.63 eV との事なので(スピン分極を考慮した計算であるにもかかわらず)過大評価をしています。

議論(反省)


実を言うと凝集エネルギーに関する議論は、AkaiKKRの掲示板に投稿があります(How can I calculate cohesive energy? (in Japanese))。その内容によると、孤立原子のエネルギーは計算できるようにする予定が、少なくとも当時は、あったようですが、現在のバージョンにも実装はされていないようです。

前述の通り、格子定数を大きくするとバンドの分散が小さくなるのでewidthを小さくするほうがよさそうな気がします。
その一方で、同じ基準でエネルギーを比較するためにはewidthを固定する必要があるようにも思います。

格子定数 a = 10.26 Bohr では ewidth=1.0 Ry 程度が必要です。通常のgo計算では ewidth の範囲を source/specx.f の mse0 で指定されたエネルギー分解能で計算するので、この値を大きくすることにより、大きな ewidth でも高分解能で起算できるかもしれません。

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


参考文献/使用機器




フィードバック



にほんブログ村 その他趣味ブログ 電子工作へ

 ↑ 電子工作ブログランキング参加中です。1クリックお願いします。


コメント・トラックバックも歓迎です。 ↓      


 ↓ この記事が面白かった方は「拍手」をお願いします。


tag: AkaiKKR machikaneyama KKR 

comment

Secret

FC2カウンター
カテゴリ
ユーザータグ

LTspiceAkaiKKRmachikaneyamaScilabKKRPSoCOPアンプPICCPA強磁性常微分方程式モンテカルロ解析odeトランジスタ状態密度インターフェーススイッチング回路ecaljPDS5022DOS定電流半導体シェルスクリプト乱数レベルシフトHP6632Aブレッドボード分散関係温度解析R6452Aトランジスタ技術I2C可変抵抗反強磁性セミナー数値積分確率論偏微分方程式バンド構造非線形方程式ソルババンドギャップ絶縁熱設計シュミットトリガLEDA/Dコンバータ三端子レギュレータLM358ISO-I2CGW近似カオスフォトカプラマフィンティン半径TL431数値微分PC817Cアナログスイッチ直流動作点解析発振回路USBサーボカレントミラー74HC4053パラメトリック解析LDAbzqltyチョッパアンプ量子力学FFT2ちゃんねるアセンブラBSch開発環境電子負荷ブラべ格子イジング模型補間基本並進ベクトル標準ロジック単振り子キュリー温度繰り返しMaxima状態方程式失敗談相対論スピン軌道相互作用FETランダムウォーク熱伝導六方最密充填構造コバルトewidthTLP621GGAQSGW不規則合金位相図抵抗SMPcygwinラプラス方程式スレーターポーリング曲線gfortranスイッチト・キャパシタ詰め回路TLP552三角波格子比熱TLP521条件分岐LM555MCUNE555QNAPマントルテスタ過渡解析FXA-7020ZRダイヤモンドデータロガーガイガー管自動計測Writer509UPSシュレディンガー方程式ブラウン運動awk差し込みグラフ熱力学平均場近似仮想結晶近似VCAfsolve井戸型ポテンシャルVESTA起電力スーパーセルOpenMP第一原理計算ubuntu固有値問題L10構造OPA2277interp12SC1815fccウィグナーザイツ胞面心立方構造フィルタジバニャン方程式ヒストグラム確率論マテリアルデザインspecx.f等高線正規分布PGAフェルミ面非線型方程式ソルバ初期値固定スピンモーメントスワップ領域ルチル構造リジッドバンド模型edeltquantumESPRESSO岩塩構造BaOSIC二相共存ZnOウルツ鉱構造フォノンデバイ模型c/aノコギリ波全エネルギーFSMTeXgnuplotmultiplotハーフメタルCapSense半金属合金結晶磁気異方性Ubuntu文字列入出力TS-110TS-112疎行列Excel直流解析ヒストグラム円周率不規則局所モーメントトラックボールPC等価回路モデルパラメータ・モデルキーボードRealforce三次元マンデルブロ集合フラクタル化学反応重積分縮退日本語最小二乗法関数フィッティングGimpMAS830LHiLAPW熱拡散方程式両対数グラフナイキスト線図負帰還安定性陰解法Crank-Nicolson法P-10クーロン散乱境界条件連立一次方程式片対数グラフEAGLEPIC16F785LMC662トランスシンボルCK1026線種凡例MBEAACircuitグラフの分割軸ラベルifort

最新コメント
リンク

にほんブログ村 その他趣味ブログ 電子工作へ