AkaiKKRで黄銅の規則・不規則転移

AkaiKKR(machikaneyama)はコヒーレントポテンシャル近似(CPA)を用いて不規則合金の電子状態の計算を行うことができます。今回は、秩序パラメータの異なる立方晶の黄銅(B2型構造とbcc構造の間)の計算を行いました。
更に、その全エネルギーと配置のエントロピーからギブスエネルギーを計算し、相の安定性を議論しました。
その結果、規則・不規則転移温度は430℃となり、この値は実験によって得られている460℃に極めて近い値となっています。

CuZnCIF.png

Fig.1: CsCl型(B2)規則構造のβ-黄銅(CuZn)。Crystallography Open DatabaseのCuZnのcifデータをVESTAで描画した。



β黄銅の規則(B2)相・不規則(bcc)相転移


物質の科学・反応と物性8.2.相転移の種類では二次の相転移の一例として、黄銅(CuZn)の規則不規則転移が紹介されています。

黄銅は、低温ではFig.1に示すようなCsCl型(B2)の規則構造をとります。これを充分高温にすると、体心立方構造(bcc)の不規則構造になります。Fig.1のB2構造は、立方晶の頂点位置に銅原子があり、体心位置に亜鉛原子があります。規則・不規則転移では、温度が上がるに従って、これらの原子がランダムに入れ替わっていき、転移温度(黄銅の場合は460℃)以上では、各サイトのそれぞれの原子の占有率が50%となる、完全に不規則なbcc構造になります。

このように連続的に状態が変わっていくような相転移を二次の相転移と呼びます(ちゃんとした定義はギブスエネルギーのn次微分が不連続になる相転移をn次相転移ということです)。状態の変化を表すパラメータとして秩序パラメータ(規則度)が使われます。いま、体心位置のサイトを亜鉛が占有する割合を r とすると、秩序パラメータは、以下のように表すことができます。
\begin{equation}
\eta = 2r - 1
\end{equation}
秩序パラメータは、完全な規則状態で η=1 完全な不規則状態で η=0 となります。
秩序パラメータは温度に対して連続的に変化しますが(実験的には)比熱の不連続から転移温度を決定することができます。



全エネルギー計算


AkaiKKR(machikaneyama)を用いれば、任意の秩序パラメータを持った黄銅の全エネルギーを計算することができます。

入力ファイルは、単純立方格子の頂点位置に銅を、体心位置に亜鉛を置く構造を基本にして、コヒーレントポテンシャル近似(CPA)を使って占有率を変化させます。格子定数は、すべての組成で a=5.565 Bohr (= 2.945 Å)としました。

c------------------------------------------------------------
go data/CuZn_XIA_ABOHR
c------------------------------------------------------------
c brvtyp a c/a b/a alpha beta gamma
sc ABOHR , , , , , ,
c------------------------------------------------------------
c edelt ewidth reltyp sdftyp magtyp record
0.001 1.0 sra pbe nmag 2nd
c------------------------------------------------------------
c outtyp bzqlty maxitr pmix
update 4 200 0.01
c------------------------------------------------------------
c ntyp
2
c------------------------------------------------------------
c type ncmp rmt field mxl anclr conc
Cu 2 1 0.0 2
29 XIA
30 XIB
Zn 2 1 0.0 2
30 XIA
29 XIB
c------------------------------------------------------------
c natm
2
c------------------------------------------------------------
c atmicx atmtyp
0 0 0 Cu
1/2 1/2 1/2 Zn
c------------------------------------------------------------


上記が、入力ファイルのテンプレートです。
このテンプレートを元にCシェルスクリプトを利用して、入力ファイルを作成、全エネルギーを計算します。

全エネルギー計算の結果


全エネルギーはB2型規則相で最も低くなりました。この事は、低温では規則構造が現れることと調和的です。

CuZn.png

Fig.3: サイトの占有率と全エネルギー。占有率100%で完全規則状態(B2構造)、50%で完全不規則状態(bcc構造)。


配置のエントロピー


次は、配置のエントロピーを考慮した有限温度での構造について議論します。
相の安定性は、ギブスエネルギーの大小関係から判断することができます(参考:全エネルギーって何だよ?)。
\begin{equation}
G = E + pV - TS
\end{equation}
ここでEは全エネルギー、pは圧力、Vは体積、Tは絶対温度、Sはエントロピーです。大気圧(p≒0)を考えるとpVの項が消えるので、残るのはエントロピーSです。

エントロピーは、振動のエントロピー(参考: AkaiKKRで金属の熱物性)と配置(混合)のエントロピーの2つの項が主要です。今回は、振動のエントロピーは、秩序パラメータにかかわらず一定と仮定して、配置のエントロピーだけを考えることにします。

配置のエントロピーは、スターリングの近似式を用いて、以下のように表すことができます。
\begin{equation}
S=-k_B N \left( \frac{1+\eta}{2}\ln (1+\eta) + \frac{1-\eta}{2}\ln(1-\eta) -\ln 2 \right)
\end{equation}

単位には注意が必要です。
まず、ギブスエネルギーの各項の次元がエネルギーの次元になっていることを確認してください。
次にエネルギーの単位として、何を選ぶかを決めます。ジュール(J)でも、リュードベリ原子単位系(Ry)でも、エレクトロンボルト(eV)でも構いませんが、今回はリュードベリ原子単位系(Ry)とします。するとボルツマン定数も kB = 6.33367 * 10-6 (Ry/K) となります。
さらに原子の数Nもそろえる必要があります。1 molでも 1 原子でも構いませんが、今回は 1 化学式、すなわち N=2 とします。

001_20151021013246770.png

Fig.4: 温度と秩序パラメータの関係


以下のScilabスクリプトを用いて計算した温度と秩序パラメータの関係がFig.4です。
得られた転移温度は430℃となり実験値の460℃と近い値です。また、広い温度範囲にわたって秩序パラメータが変化する二次の相転移の特徴も確認できます。

clear;

// *** 入力パラメータと定数 ***
// ボルツマン定数 6.33367E-6 (Ry/K)
kB = 1.380658E-23/2.17987E-18;
// 原子数
N = 2;

// *** 全エネルギーの読み込み ***
M = fscanfMat("CuZn.txt");
X = M(:,1);
E = M(:,2);
// 全エネルギーの内挿
Xp = linspace(50,99.999,1000);
Ep = interp1(X, E, Xp, 'spline');
// 秩序パラメータ
ETA = 2 .* (Xp ./ 100) - 1;

// *** エントロピー計算 ***
// 配置のエントロピー
Sm = -1 * kB * N * (((1+ETA)./2).*log(1+ETA)+((1-ETA)./2).*log(1-ETA)-log(2));
// 温度ごとにギブスエネルギーを計算
Temp = [0:0.1:600];
Xmin = [];
ETAmin = [];
for i=1:length(Temp) do
T = Temp(i) + 273.15;
Gp = Ep - T .* Sm; // ギブスエネルギーの計算
[gmin, k] = min(Gp); // ギブスエネルギーの最小を探す
// ギブスエネルギーが最小となる占有率と秩序パラメータを保存
Xmin = [Xmin, Xp(k)];
ETAmin = [ETAmin, ETA(k)];
end

// *** グラフのプロット ***
plot(Temp,ETAmin);
xlabel("Temperature (deg C)")
ylabel("Order parameter");


関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


参考文献/使用機器




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