AkaiKKRで反強磁性クロム

AkaiKKR(machikaneyama)を用いて整合反強磁性クロムの計算を行いました。反強磁性の計算の正しいやり方は分かりませんが、格子定数を大きくして無理矢理に強磁性状態にしたクロムのポテンシャルファイルを初期ポテンシャルとして計算を行うと、強磁性状態とも常磁性状態とも異なる反強磁性状態の解が得られませした。
しかしながら、全エネルギーが最小となる格子定数においては、反強磁性状態が安定とはなりませんでした。

CrDOS.gif
Fig.1: 反強磁性クロム(赤)と常磁性クロム(緑)の部分状態密度の格子体積依存性。格子体積が小さくなるとともに反強磁性的な磁気モーメントが消える。



反強磁性クロム


体心立方構造(bcc)のクロムは、反強磁性体の金属として知られています。Wikipediaの反強磁性の項目には以下のように、クロムを広義の反強磁性体として分類しています。

体心立方構造の頂点位置と体心位置のスピンが反対方向を向いているだけでなく、スピンの大きさが単位胞ごとに正弦関数的に変化している。

しかしながら、第一原理計算では、しばしば単純に体心と頂点のスピンが反対を向いているだけの反強磁性クロムの計算がなされます。(例えば第一原理計算ソフトウェア Advance/PHASEの応用機能と解析事例計算機マテリアルデザイン入門 (大阪大学新世紀レクチャー)のABCAPによる計算例など。)このような反強磁性を整合(commensurate)反強磁性と呼びます。



今回はAkaiKKR(machikaneyama)を用いて上記の単純な整合反強磁性クロムの計算を行いうことを目標にします。

反強磁性体のポテンシャルファイル


クロムの入力ファイルを作成し、そのままmagで計算を行っても反強磁性状態の解は得られません。

計算機マテリアルデザイン入門 (大阪大学新世紀レクチャー)のAkaiKKRの項目には、強磁性状態の鉄のポテンシャルファイルからfmgを用いてスピングラス状態のポテンシャルファイルを作成する方法が書かれています。さらにそのページには反強磁性状態の計算をする場合にも同じようにしてデータファイルを作ることができるとあります。

スピングラス状態の計算では、強磁性状態の計算で得られたポテンシャルファイルのスピンの向きを反転させたポテンシャルファイルを作成し、それらをCPAする事でスピングラス状態を実現していました。いうなればスピンの異なる原子の不規則合金です。ねがてぃぶろぐでもAkaiKKRで鉄のキュリー温度にて計算を行いました。
このことから類推するに、反強磁性状態も、スピンの異なる原子を交互に並べることで実現できそうです。つまりスピンの異なる原子の規則合金という事です。

そのためにはまず、強磁性状態のポテンシャルファイルを作成します。bcc構造のクロムの格子定数はa=2.88Å(a=5.45bohr)程度ですが、この格子定数で磁性状態を含む計算(mag)を行っても、常磁性状態の解が得られるのみです。
そこで意図的に大きな格子定数(例えばa=8.0bohrなど)を指定して強磁性解を得ておきます。

その後、utilにあるfmgを用いて、反転させたポテンシャルファイルを初期ポテンシャルとしてgo計算を行います。
シェルスクリプトやfmgのための入力ファイル、計算のテンプレートなどは以下のようになりました。実行ファイルfmgはパスの通ったところにおいてあるとし、入力ファイルのテンプレートはtemplateという名前のフォルダを作成して入れておきます。

#!/bin/csh -f

set A_LIST=( 5.60 5.55 5.50 5.45 5.40 5.35 5.30 5.25 5.20 )

rm analysis/CrAFM.dat
rm analysis/CrNMG.dat

specx < in/CrFMG.in > out/CrFMG.out
fmg < crafm

foreach A ( ${A_LIST} )
sed 's/'ABOHR'/'${A}'/g' template/CrAFM0.in > in/CrAFM_${A}.in
specx < in/CrAFM_${A}.in > out/CrAFM_${A}.out
sed 's/'ABOHR'/'${A}'/g' template/CrNMG0.in > in/CrNMG_${A}.in
specx < in/CrNMG_${A}.in > out/CrNMG_${A}.out

sed -e '$d' data/crafm.info | sed -n '$p' >> analysis/CrAFM.dat
sed -e '$d' data/crnmg.info | sed -n '$p' >> analysis/CrNMG.dat
end

grep "spin moment" out/CrAFM_*.out | awk 'NR % 4 == 1;NR % 4 == 2'




結果


ある一つのクロム原子に着目した部分状態密度(PDOS)の格子体積依存性がFig.1のgif動画です。格子体積が大きく、反強磁性的な磁気モーメントが存在する間はDOSの形状が非磁性状態のものと異なっていますが、体積が小さくなり磁気モーメントが消えるとともにDOSの形状も非磁性状態のものと同じになります。

DOS.png
Fig.3: 格子定数a=5.45bohrにおける反強磁性クロム(赤)と常磁性クロム(緑)の部分状態密度


Fig.3に示したのが実験により得られた格子定数付近(a=5.45bohr)における反強磁性クロムと常磁性クロムの部分状態密度です。反強磁性状態ではフェルミ準位近傍に特徴的なふくらみを見ることができます。

CrAFM-Energy.png
Fig.4: 全エネルギーの格子体積依存性


Fig.4に示したのが全エネルギーの格子体積依存性です。磁気モーメントが大きい間は、反強磁性相の方がエネルギー的に安定であることがわかります。磁気モーメントが小さくなるにしたがって全エネルギーの差が小さくなることも読み取れます。
しかし、全エネルギーが最小化するのはほとんど磁気モーメントが消失しているa=5.40bohr付近でエネルギー的にはほとんど差が見られません。それどころか、残念なことにわずかながら常磁性状態の方がエネルギー的に安定であるという結果になっています。

これが整合反強磁性を仮定したためなのか、単純にbzqlty(k点の数)が低いためなのか、数値計算の限界なのかは私には判断できません。

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したAkaiKKR用のファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


参考文献/使用機器




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