AkaiKKRでFeCoの磁気モーメントと格子定数

AkaiKKR(Machikaneyama)を用いて、FeCo二元系不規則合金の磁気モーメントと格子定数を計算しました。その結果、その磁気モーメントがスレーターポーリング曲線から予想される山形となることが確認できました。

この際、AkaiKKRを用いて強磁性体金属の格子定数を決定するためには、非磁性の金属よりも高いbzqltyが必要となることが分かりました。

また、状態密度の計算から、スレーターポーリング曲線の頂点は、弱い強磁性から強い強磁性へ変化する点と対応することが確認できました。

DOS.gif
Fig.1: bcc-Fe100-xCox合金の状態密度のコバルト濃度依存性。アニメーションは純鉄から順に10%刻みで純コバルトまで。



強磁性と格子定数


AkaiKKRで銅の格子定数ではAkaiKKR(Machikaneyama)を用いてスピン分極を考慮しない場合の銅の格子定数を計算しました。その結果、銅の様な非磁性の金属の場合はbzqlty = 3といったかなり低い値であっても、得られる格子定数はbzqlty = 16としたときの値と大差ないことが分かりました。

一方で、鉄・ニッケル・コバルトといった、強磁性体金属の計算に関してはAkaiKKRの計算精度と計算時間 その2からスピン分極を考慮した計算から磁気モーメントを見積もる場合はbzqlty = 16程度の精度が必要であろう事がわかります。

磁性入門―スピンから磁石まで (材料学シリーズ)などによると遷移金属合金では、その格子定数と磁気モーメントの間に強い関係があると書かれています。

スレーターポーリング曲線


鉄・ニッケル・コバルトの3種類の金属は、単体で強磁性を示します。更にこれらの3種類の金属をベースにした遷移金属合金もまた強磁性体です。そして、非常に興味深い事実ですが、これらの合金の磁気モーメントは、スレーターポーリング曲線(Slater-Pauling)と呼ばれる山形の曲線上に1原子あたりの平均電子数の関数としてプロットできます。

以下に示すのは、磁石・磁気の用語辞典にて紹介されているスレーターポーリング曲線です。

001_20140604225835b78.jpg

Fig.2: スレーターポーリング(Slater-Pauling)曲線


今回は、このスレーターポーリング曲線の頂点となるFeCo合金についてAkaiKKRを用いて格子定数と磁気モーメントを計算します。

計算手法


本エントリではAkaiKKR(Machikaneyama)を用いてFeCo合金系の平衡格子定数とそのときの磁気モーメントを計算します。
計算を行う化学組成は、純Feから純Coまで10%刻みとし、結晶構造は体心立方構造(bcc)としました。現実の純Coは六方最密充填構造(hcp)なので、計算は一部準安定相に対してのものも含みます。実際には純FeからFe30Co70程度までbcc相の測定結果がある様です。

それぞれの化学組成に対して、格子定数aを a = 5.15 bohr から 5.40 bohr まで 0.01 bohr 刻みで計算しました。以下に示すのは、入力ファイルの一例でFe70Co30組成でa = 5.29 bohrのものです。

 go    data/feco_5.29
bcc 5.29, , , , , ,
0.001 1.2 sra mjw mag 2nd
update 16 200 0.02
1
FeCo 2 0 0 2 26 70
27 30
1
0.00000 0.00000 0.00000 FeCo


得られた全エネルギーをMurnaghanの状態方程式にフィッティングして平衡格子定数を得ました。
平衡格子定数のときの磁気モーメントは、スプライン補間から求めました。

その後、状態密度曲線を描くために、平衡格子定数でもう一度セルフコンシステント計算を行いました。(今にして思えば、磁気モーメントはこの計算の値をプロットすれば良かったのにと思います。)

bzqltyAkaiKKRの計算精度と計算時間 その2の考察からbzqlty = 4の場合とbzqlty = 16の場合の計算を行いました。

磁気モーメントと格子定数


bcc-Fe-Co系不規則合金の平衡格子定数と磁気モーメントの計算結果をFig.4(bzqlty=4)とFig.5(bzqlty=16)に示します。

013_201406050036324fc.png

Fig.4: bcc-Fe-Co合金系の格子定数のコバルト濃度依存性(bzqlty = 4)。


012_20140605002415370.png

Fig.5: bcc-Fe-Co合金系の格子定数のコバルト濃度依存性(bzqlty = 16)。


まずはAkaiKKRの計算精度と計算時間 その2での考察の続きですが、強磁性金属の磁気モーメントはbzqlty = 16程度の比較的精度の高い計算を要求します。更に磁性入門―スピンから磁石まで (材料学シリーズ)にある通り、強磁性体金属の格子定数は磁気モーメントに強く依存します。本エントリの計算結果Fig.4-5を比較すると、bzqlty = 4の場合は、磁気モーメントの組成依存性がガタガタしているのに対して、bzqlty = 16は、なめらかに山形になっています。
これを反映して、格子定数の方もbzqlty = 16の方が良い結果を与えていることが分かります。
このことからAkaiKKR(Machikaneyama)を用いて強磁性体金属の格子定数を決定する場合はbzqltyを大きめに取る必要があることが分かります。

状態密度とリジッドバンドモデル


強磁性金属の磁気モーメントの大きさは、第一原理計算により得られた状態密度曲線から理解することが出来ます。
まず、端成分となるbcc-Feとbcc-Coの状態密度を以下に示します。

001_20140605020120137.png
Fig. 6: bcc-Feの状態密度

011_20140605020119228.png
Fig. 7: bcc-Coの状態密度


まず読み取れることは、bcc-Feもbcc-Coも状態密度曲線の形は非常に良く似ていると言うことです。ただし、フェルミエネルギーの位置が異なっています。

鉄の状態密度では、フェルミ準位は多数スピン(Upスピン)バンドの中ではdバンドにあります。これに対してコバルトの状態密度では、フェルミ準位が多数はスピンバンドの中ではdバンドの外にあります。前者の様に多数スピンバンドにおいてフェルミ準位がdバンドの中にあるような強磁性を弱い強磁性、後者の様に外にあるような強磁性を強い強磁性と呼びます。(単体金属としては最大の磁気モーメントを持つbcc-Feが弱い強磁性で、それよりも小さい磁気モーメントを持つコバルトやニッケルが強い強磁性と言うのは奇妙な気がしますが、とにかくそう呼びます。)

スレーターポーリング曲線の山形の部分は、多くの場合リジッドバンドモデルの考え方で説明できます。
リジッドバンドモデルとは、Wikiepdiaの該当項目では、以下の様に説明されています。(リジッドバンドモデル)

リジッドバンドモデル(固定バンドモデル、Rigid band model)は、例えば不規則二元合金において、その混合比が変わったとしても、そのバンド構造や状態密度の形は固定して不変であると考え、混合比の変化による電子数の変化によって、フェルミエネルギーの位置が変わるとした近似である。現実のバンド構造や状態密度が大きく変化する場合には適用できない。


bcc-FeCo合金に関して言うならば、bcc-Feとbcc-Coの様に互いによく似た状態密度を持つ金属同士であるので、リジッドバンドモデルが良く成り立ちそうだ、と言う予想が立ちます。

磁気モーメントの大きさは、多数スピンバンドと少数スピンバンドの電子の数の差に比例します。
このため、リジッドバンドモデル的な考え方では、合金化によって価電子の数が変化するのに伴って、フェルミ準位の位置がどのように変化するのかを考えることに他なりません。

リジッドバンド的考え方では、電子数が増えるにつれて多数スピンバンドと少数スピンバンドのどちらか、あるいは両方に電子が入って行き、フェルミ準位に対して相対的に状態密度が低エネルギー側へ動いていくような挙動になると考えます。
このとき、弱い強磁性の間は、多数スピンバンドのフェルミ準位における状態密度が、少数スピンバンドのそれよりも大きいため、その差に比例する磁気モーメントは次第に大きくなる挙動を示します。

状態密度が低エネルギー側へシフトして行き、多数スピンバンドのフェルミ準位がdバンドから外れると多数スピンバンドの状態密度が低くなり、それとほぼ同時に少数スピンバンドではフェルミ準位が状態密度の谷間から抜けることによりフェルミ準位の状態密度が高くなります。このような強い強磁性の状態では、電子数が増えるにつれ多数スピンバンドと少数スピンバンドの価電子数の差が小さくなるので、磁気モーメントは次第に小さくなります。

この様に、スレータポーリング曲線の頂点は、(純鉄側からコバルト濃度を足していったときに)弱い強磁性から強い強磁性へと変化する点であると考えられています。

それでは、コヒーレントポテンシャル近似(CPA)によって得られた(リジッドバンドモデルよりは現実に近いであろう)状態密度を見てみます。端成分たる純鉄と純コバルトは再掲になりますが、純鉄から純コバルトまで10%ごとの状態密度を以下に示します。

001_20140605020120137.png
Fig. 6: Fe100Co0の状態密度

002_20140605030415d56.png
Fig. 7: Fe90Co10の状態密度

003_201406050304153c4.png
Fig. 8: Fe80Co20の状態密度

004_20140605030415aab.png
Fig. 9: Fe70Co30の状態密度

005_20140605030415008.png
Fig. 10: Fe60Co40の状態密度

006_201406050304142fc.png
Fig. 11: Fe50Co50の状態密度

007_20140605030414c1c.png
Fig. 12: Fe40Co60の状態密度

008_20140605030514a75.png
Fig. 13: Fe30Co70の状態密度

009_20140605030513b8a.png
Fig. 14: Fe20Co80の状態密度

010_20140605030513c7f.png
Fig. 15: Fe10Co90の状態密度

011_20140605020119228.png
Fig. 16: Fe0Co100の状態密度


リジッドバンドモデルでは、状態密度の形は変化しないという仮定を置いています。コヒーレントポテンシャル近似(CPA)を用いて計算をすると、不規則性の影響でシャープな状態密度が幾分鋭さを失いますが、おおよそ似たような形状を保つことが分かります。
スレーターポーリング曲線から、Fe70Co30組成付近で磁気モーメントが最大となる事が読み取れます。リジッドバンドモデルから、この組成で弱い強磁性から強い強磁性へと状態密度が変化することが予想できたわけですが、CPA計算でもこの組成付近で多数スピンバンドにおけるフェルミ準位がdバンドから抜けることが確認できます。

まとめ


強磁性遷移金属合金においては、以下のことが知られています。
  • 磁気モーメントがスレーターポーリング曲線に従う
  • 格子定数が磁気モーメントに強く依存する

このことを確認するために、AkaiKKR(Machikaneyama)を用いてFe-Co系合金の格子定数と磁気モーメントを計算しました。

その結果、スレーターポーリング曲線の頂点付近の山形が再現できました。
この際、入力パラメータであるbzqltyは、非磁性の金属と比較して大きな値(bzqlty = 16程度)を指定しないと正しく計算できないことが分かりました。

FeCo合金のこの様な挙動は、リジッドバンドモデルから理解できることが知られています。
このことを確認するために、平衡格子定数のときの状態密度を計算しました。
その結果、Fe70Co30の組成で、弱い強磁性から強い強磁性へと変化することが確認できました。このことからFeCo合金においてリジッドバンドモデルが良く成り立つと考えることが出来そうです。

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