Scilabで金属の電子比熱

Scilabで金属の化学ポテンシャルでは非線形方程式ソルバfsolveを使って金属の化学ポテンシャルを温度の関数として求めました。これを利用すると電子系の内部エネルギーが温度ごとに計算できます。

今回は、この電子系のエネルギーを温度で数値微分して電子比熱を計算しました。

001_20130616223024.png


電子比熱


電子比熱は、電子系のエネルギーue(T)を温度Tで微分することによって得られます。

c_e(T) = \frac{\mathrm{d}u_e(T)}{\mathrm{d}T}

電子系の内部エネルギーは

u_e(T) = \int_{-\infty}^{\infty}\epsilon f(\epsilon,T) D(\epsilon) \mathrm{d}\epsilon

f(\epsilon,T) = \frac{1}{\exp{\left(\frac{\epsilon - \mu(T)}{k_B - T}\right)}+1}

として表されるため前回数値データとして得られた化学ポテンシャルμ(T)を代入することによって、温度の関数としてue(T)の数値データを得ることが出来ます。

今回は、微分を数値的に行うことによってue(T)からce(T)を求めます。

数値微分


数値的な微分とは、実際には数値差分です。
微分の定義は

f^{'}(x) = \lim_{\Delta x \to 0} \frac{f(x+\Delta x) - f(x)}{\Delta x}

なのでΔxが充分小さければ

f^{'}(x) \simeq \frac{f(x+\Delta x)-f(x)}{\Delta x}

と引き算(差分)と割り算で計算できます。

プログラミング


電子比熱の微分を差分に置き換えると

c_e(T) = \frac{u_e (T+\Delta T)-u_e(T)}{\Delta T}

差分はベクトルueの中の隣り合うようその引き算からもとまりますが、これを一気にやってくれるScilab関数がdiffです。
今回のソースコードでは、化学ポテンシャルμ(T)を計算するループの中でついでに内部エネルギーue(T)を計算した後
// 数値計算による電子比熱
dUdT = diff(Uenum) / tstep;
Cenum = [0,dUdT];

として差分を求めています。
差分を求める際に、ベクトルのようその数がひとつ減ってしまうので、先頭にT=0のときの値ce=0を補っています。

作成したソースコードはElectronicSpecificHeat_sce.txtです。

結果と考察


電子比熱の温度依存性のグラフをFig.1に示します。
これまでの計算ではリュードベリ原子単位系を使ってきましたが、実験データと直接比較できるように縦軸がモル比熱となるようにしました。


001_20130616223024.png
Fig.1: 自由電子近似を用いたアルミニウムの電子比熱の温度依存性。青実線はゾンマーフェルト展開、赤破線は数値計算による結果。


前回書いたとおりゾンマーフェルト展開から

c_e(T) = \frac{\pi^2}{3} k_B^2 D(\epsilon_F)T

またScilabで差し込みグラフ:金属の比熱で書いたとおり金属の低温での電子比熱は、電子比熱係数γを用いて

c_e(T) = \gamma T

と書ける事が実験から知られています。

これらを比較すると

\gamma = \frac{\pi^2}{3} k_B^2 D(\epsilon_F)

となります。

実験から求められた電子比熱係数はγ=1.35(mJ/mol/K^2)です。これに対して「自由電子近似+ゾンマーフェルト展開」で求めたものはγ=0.91(mJ/mol/K-2)となり、自由電子近似はアルミニウムに対しておおよそ妥当といったところだと思います。(参考:Lin et al. 2008 Phys. Rev. B)

数値微分に関してなのですが、今回は温度の刻み幅を一定にしてしまったため、本当は低温側で刻み幅が温度そのものと比較して小さくならない様になってしまっています。このことは微分の結果をおかしくしてしまう筈なのですが、そもそもほとんど直線になるような式であったため、その効果が見えていないようです。もっと複雑な式を微分するときには注意しなければなりません。

数値計算とゾンマーフェルト展開の比較は、前回と同様です。
自由電子近似を用いたアルミニウムの電子状態では、融点以上までゾンマーフェルト展開は妥当であるといえそうです。

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したLTspiceのシミュレーション用ファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


参考文献/使用機器




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