Scilabで関数フィッティング: 金属の電気抵抗

実験データのフィッティングを行うことの出来る非線形最小二乗法は、gnuplotを含む色々なソフトに実装されています。しかし、積分を含む関数へのフィッティングは通常困難です。これに対してScilabを使えば数値積分と組み合わせることにより積分を含む式への実験データのフィッティングが簡単に行えます。

例としてgnuplotを用いた関数の積分(再帰定義)で行われている白金の電気抵抗測定データのブロッホ・グリューナイゼンの式へのフィッティングを再現しました。その結果Scilabで数値積分と組み合わせて行ったフィッティングもほぼ同じ結果を示すことが確認できました。

001_20130524200240.png 002_20130524200239.png


関数フィッティング


実験データを取得した後、何らかの式(例えば理論的に予測される式など)に実験データを「あてはめ」て、パラメータを求めるというようなことが、非常に良く行われます。具体例を挙げるなら、前回のScilabで数値積分: 固体の比熱で紹介したアインシュタインモデルやデバイモデルの式に実際に測定した比熱のデータをあてはめて、アインシュタイン温度やデバイ温度といったその物質固有のパラメータを求めるなどです。

このような処理を「関数フィッティング」とか「曲線あてはめ」などと呼びます。グラフ描画ソフトとして有名なgnuplotにも非線形関数を使った最小自乗フィッティングの方法が実装されています。

どういった関数に「あてはめ」を行うかによって計算自体の難易度も変わるのですが、Scilabで数値積分: 固体の比熱のときと同様に積分を含む式へのフィッティングは最も難しいもののひとつで、gnuplotで行おうとすると再起定義を用いた多少トリッキーな方法が必要になります。(参考:gnuplotを用いた関数の積分(再帰定義))

一方、ScilabではScilabで数値積分: 固体の比熱の方法で積分を含む関数の定義を行うことで、積分を意識する事無く、他の非線型方程式へのフィッティングとおなじ方法で積分を含む関数へのフィッティングを行うことが出来ます。

今回のエントリでは、Non-linear regression using Scilab and Octaveの方法を用いてgnuplotを用いた関数の積分(再帰定義)で扱っている白金の電気抵抗のブロッホ・グリューナイゼンの式へのフィッティングを再現してみます。

金属の電気抵抗


Scilabで数値積分: 固体の比熱で見た固体の比熱と同様に、金属の電気抵抗の温度依存性も多くの種類の金属に共通した関数の形であらわされることが知られています。(参考:シミュレーション例(電気抵抗))

純度の高い金属の電気抵抗率は、以下に示すブロッホ・グリューナイゼンの式であらわされます。

\rho(T) = C \left( \frac{T}{\Theta_D} \right)^5 \int^{\Theta_D / T}_0 \frac{x^5}{(e^x -1)(1-e^{-x})}{\rm d}x

ここで金属の種類に依存するパラメータは、デバイ温度(ΘD)と物質定数(C)の二つです。

実際の金属には不純物や格子欠陥があるため残留抵抗成分が足されます。また、測定値は抵抗率ではなく抵抗値なので、文字もρではなくRに変えます。

R(T) = R_0 + A \left( \frac{T}{\Theta_D} \right)^5 \int^{\Theta_D / T}_0 \frac{x^5}{(e^x -1)(1-e^{-x})}{\rm d}x

以上がフィッティングに用いる式です。

プログラミング


白金の電気抵抗の測定データはgnuplotを用いた関数の積分(再帰定義)で公開されているPt.datをScilabで読み込めるように整形したものを用いました。各行末のiと157行目を削除する必要があります。
Scilabへのデータの読み込みはfscanfMatを利用しました。(参考:ExcelデータをScilabで読みこむScilabで大容量のCSV(テキスト)ファイルを読み込む)

フィッティングにはNon-linear regression using Scilab and Octaveを参考にlsqrsolveを用いました。

// 温度-抵抗データの読み込み
X = fscanfMat("Pt.dat");
T = X(:,1);
R = X(:,2);

// Bloch-Gruneisen関数の定義
function R = BG(T)
R = r0 + a .* ((T ./ dt) .^ 5) .* integrate('(x .^ 5) ./ ((exp(x) - 1) .* (1 - exp(-x)))','x',0,dt ./ T);
endfunction

// フィッティング
function e = f1(fitparam,m)
dt = fitparam(1); //デバイ温度
a = fitparam(2); //物質定数
r0 = fitparam(3); //残留抵抗
e = R - BG(T);
endfunction
[fitparam, v] = lsqrsolve([200;100;0.9],f1,size(T,1));
dt = fitparam(1) //デバイ温度
a = fitparam(2) //物質定数
r0 = fitparam(3) //残留抵抗

// 抵抗データとフィッティング結果のプロット
scf(0)
plot(T,R,'+r');
plot(T,BG(T),'-g');
zoom_rect([0,0,300,120]) //描画領域[x1,y1,x2,y2]
xlabel("Temperature (K)");
ylabel("$\mathrm{Resistance} (\Omega)$");

// 相対誤差のプロット
scf(1)
plot(T,(R - BG(T))./BG(T),'+r');
zoom_rect([0,-0.30,300,0.15]) //描画領域[x1,y1,x2,y2]
xlabel("Temperature (K)");
ylabel("Relative error");


フィッティング結果


以降にフィッティング結果を示します。
gnuplotを用いた関数の積分(再帰定義)と比較を行いやすいように、シンボルと色を統一してあります。

001_20130524200240.png
Fig.1: 白金の抵抗値測定データと(赤)フィッティング関数(緑)

002_20130524200239.png
Fig.2: 測定データとフィッティング結果の相対誤差


Fig.1に示すように、フィッティングがうまく行っていそうな事がわかります。
またFig.2を原典と比較すれば、相対誤差もgnuplotによるフィッティングとほぼ同程度となっていることが読み取れます。

gnuplotscilab
A344.574345.2282
ΘD230.306230.71733
R01.25831.2792533
table.1: フィッティングパラメータ


フィッティングパラメータも手法の違いによる多少のずれは見られるものの、おおよそ合っています。

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したScilabのソースコードファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


参考文献/使用機器




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