AkaiKKRで不規則NiMn合金の分散関係

密度汎関数法の発展で紹介されているニッケル-マンガン合金のブロッホスペクトル関数(バンド構造, エネルギー分散関係, E-k曲線)をAkaiKKR(Machikaneyama)を用いて計算し、不規則性の効果によりにじんだバンド分散関係の図が得られました。




AkaiKKRで不規則NiFe合金の強磁性では、AkaiKKR(Machikaneyama)を用いてfcc構造のニッケルと鉄を端成分とする固溶体合金の電子の状態密度を計算し、鉄の濃度の上昇により75%付近で強磁性が消失することを確かめました。

今回は、状態密度だけでなく電子のバンド構造(エネルギー分散関係,E-k曲線)を描画してみます。計算対象の物質は、密度汎関数法の発展で紹介されているニッケル-マンガン合金です。

入力ファイル


セルフコンシステント計算(go)と状態密度計算(dos)のための入力部分はAkaiKKRで不規則NiFe合金の強磁性のものとほぼ同じで固溶させる原子の番号が26(Fe)から25(Mn)に変更された程度です。前回は、たくさんの組成に対して計算を行いましたが、今回は純粋なニッケルとニッケルに15%マンガンを固溶させたものの2つの組成だけを計算しました。

その代わり電子の分散関係を描画するためのブロッホスペクトル関数の計算(spc)を行います。
この計算には、計算を行うk点をk空間での座標で指定する必要があります。このときの座標は 2π/a で規格化されているので格子定数 a が異なる結晶でも同じ結晶構造なら使いまわすことが出来ます。


001_20130120185338.png

Fig.1: fcc構造の第一Brillouin Zone(Wikipediaより転載)

W1/200
L1/21/21/2
Γ000
X001
W1/201
K3/403/4
table.1: 計算するk点のパス


k点のパスの選び方はどう取るのがよいのかいまいち良く分からないのですが、table.1のk点を通るようにし、それぞれの特徴的なk点の間を100点ずつ計算することとしました。(密度汎関数法の発展のパスのとり方と違ってしまいました・・・すみません。)

最終的な入力ファイルは、NiMn_in.txtとなりました。

specx.fの編集


おそらくCygwinでAkaiKKR(Machikaneyama)のspecx.fの設定では、nk1xかnk3xのあたりが不足してしまうと思います。私が今回の入力ファイルを計算したときのspecx.fの設定は下記の通りです。

     & (natmmx=4, ncmpmx=4, msizmx=198, mxlmx=3, nk1x=2200, nk3x=2688,
& msex=201, ngmx=15, nrpmx=650, ngpmx=650, npmx=350, msr=400)

specx.fを編集したらふたたびmakeします。

gnuplotで分散関係(E-k曲線)の描画


以上のような設定で計算を実行するとdataディレクトリにni.spcやni85mn15.spcといったファイルが出来ます。(ファイル容量が5MBと大きいため、fc2blogにはアップロードできませんでした。)

これらのファイルは、入力ファイルで指定したk点の座標(波数ベクトル:k)ごとに、エネルギー(E)とブロッホスペクトル関数(A(k,E))の値が書かれています。これを、横軸に波数ベクトルk、縦軸にエネルギーEをとり、ブロッホスペクトル関数A(k,E)を色の濃淡で表すことを考えます。

これをどのように実現するのがベターなのか、私には自信がありませんが、gnuplotではカラーマップを使った2次元プロット(pm3d map)で描画できそうです。

入力のデータ形式は3次元データのフォーマットの様にx,y,zの組で与える必要があります。ni.spcをみるとyとzに相当するエネルギーEとブロッホスペクトル関数A(k,E)の値は既に組になって書かれているので、1列目にx軸の数値を補ってやる必要があります。

k点のパスは W → L → Γ → X → W → K なので、この順に道のりの長さをx軸の数値にします。
三次元空間の2点間の距離は

\sqrt{(x_2 - x_1)^{2} + (y_2 - y_1)^{2} + (z_2 - z_1)^{2}}


なのでパスの最初の点であるWからの道のりの長さはそれぞれtable.2のようになります。ここの計算は簡単なスクリプトで自動化できるのだろうとは思うのですが、差し当たりExcelでちまちま計算しました。一度計算すれば(結晶構造が同じでエネルギーメッシュやk点の分解能が同じなら)コピー&ペーストで使いまわせます。(fc2blogの容量制限でアップローで出来ずすみません。)時間が出来たらなんらかのスクリプトを書こうと思います。

W0
L0.70710678
Γ1.57313218
X2.57313218
W3.07313218
K3.42668558
table.2: W点からの逆格子空間の道のり


目盛見出しの「目盛見出しを任意の文字に変更する」の方法を使えばx軸の値を文字列に置き換えられます。ラベルにα,βの様なギリシャ文字を使いたいの方法でギリシャ文字を含むラベルがかけます。リンク先の例ではpostscriptのターミナルでしか使えないようにも見える記述ですが、
gnuplot > set terminal windows enhanced

gnuplot > set terminal png enhanced
も可能です。
table.2の対応を考慮して
set xtics   ("{W}" 0.000000, "{L}" 0.707107, "{/Symbol G}" 1.57313, "{X}" 2.57313, "{W}" 3.07313, "{K}" 3.42669)
としました。

計算結果: 純ニッケル


以降は計算結果です。まずは純ニッケルについて。


002_20130120185338.png

Fig.2: Niの状態密度


Fig.2は、AkaiKKRで不規則NiFe合金の強磁性のときと全く同じ計算で、上半分が上向きスピンの状態密度、下半分が下向きスピンの状態密度で、エネルギーの原点がフェルミ面です。

003_20130120185338.pngFig.3: Niの上向きスピンの分散関係004_20130120185337.pngFig.4: Niの下向きスピンの分散関係


Fig.3-4は、ニッケルのバンド分散関係を上向きスピン、下向きスピン別々にプロットしたものです。どちらも似たような形をしていますが、フェルミ面が曲線の傾きが小さいバンドの密集しているところを横切っている(下向きスピン)かそれよりも高いところを横切っているか(上向きスピン)の違いがわかります。これは、状態密度の図(Fig.2)でフェルミ面が、下向きスピンでは状態密度の高いところにあり、上向きスピンでは低いところにあることと対応しています。

計算結果: Ni0.85Mn0.15


次にニッケルマンガン合金の計算結果です。


005_20130120185337.png

Fig.5: Ni0.85Mn0.15の状態密度


ニッケルの状態密度は、鋭いピークを持った形状をしていましたが、ニッケルマンガン合金は俄然ブロードな形となっています。

006_20130120185337.pngFig.6: Ni0.85Mn0.15の上向きスピンの分散関係007_20130120185347.pngFig.7: Ni0.85Mn0.15の下向きスピンの分散関係


ブロードな状態密度の形状は、分散関係の図でバンドを示す線がにじんでしまっていることと対応付けられます。(Fig.3-4の段階で既に線がにじんでしまっているように見えますが、これは本来シャープな曲線のはずです。にじんでしまっているように見えるのは、おそらく、私の技術的な問題です。)

密度汎関数法の発展には、このことに関して以下のようにあります。

Ni0.85Mn0.15合金のエネルギー分散の図が本を水でぬらしてしまったようにところどころにじんでいるのがわかる。これは印刷の失敗でも汚れでもなくて、まさに不規則性の効果が現れたものである。Niの場合には系が規則的なために結晶運動量hk/2πが良い量子数となって固有エネルギーを決定するのに対して、Ni0.84Mn0.15合金では系がもはや規則的でないために結晶運動量hk/2πについて固有状態が得られずブロッホスペクトル関数が広がってしまうのである。


関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したAkaiKKRの入力ファイルを添付します。


参考文献/使用機器





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