AkaiKKRで不規則NiFe合金の強磁性

計算機マテリアルデザイン入門 (大阪大学新世紀レクチャー)で紹介されている不規則NiFe合金の状態密度をAkaiKKR(Machikaneyama)を利用して計算しました。

NiFe.gif
Fig.1: NiFe合金の状態密度


その結果、NiFe合金は65%以上のFe濃度から急激に(特に上向きスピンの)状態密度の形状が変化し、75%Fe程度で強磁性を失うことが確認できました。


コヒーレントポテンシャル近似(CPA)


第一原理バンド計算法は、結晶構造の周期性を利用して計算を行っているため、ランダムに原子が置換している不規則合金の計算を苦手としています。比較的よく利用されている解決策は、複数の単位格子を合わせて大きな単位格子(スーパーセル)をつくり、その中の原子を不純物原子に置き換えて計算を行うというものです。しかしながら、この方法では希薄な不純物合金の計算をするためには大きなスーパーセルが必要となるため計算量が増えるという問題点もあります。

コヒーレントポテンシャル近似(coherent potential approximation: CPA)は、こういった問題を解決するために考案された近似法で、TB(tight-banding)法やKKR(Korringa-Kohn-Rostoker)法といったバンド計算法と組み合わせて不規則合金の電子構造を計算することが出来ます。CPAの解説記事としてはコヒーレント・ポテンシャル近似 CPA-1--2-CPAの応用(米沢富美子 固体物理 1971, 1972)などがあるようです。AkaiKKR(Machikaneyama)は、大阪大学の赤井久純先生が公開されているKKR-CPAを用いた第一原理計算パッケージです。

CygwinでAkaiKKR(Machikaneyama)ではWindows上でAkaiKKR(Machikaneyama)を利用する方法を書きました。今回はCPAの応用として良く挙げられているfcc構造のニッケル-鉄合金の状態密度計算を行いました。(参考: 計算機マテリアルデザイン入門 (大阪大学新世紀レクチャー))


入力ファイル


入力ファイルには、複数の計算設定を順に書いておくことによって、一挙に計算をさせることが出来ます。下記にNiとNi95Fe5の計算部分を示します。実際の入力ファイルは5%ずつ鉄の濃度を振ってfcc構造の純鉄まで計算を行いました。(NiFe_in.txt)

c ***********************************************
c pure Nickel
c ***********************************************
c *** Self-consistent calculation ***
go data/ni
fcc 6.67 , , , , , ,
0.001 1.2 nrl mjw mag init
update 4 100 0.02
1
Ni 1 0 0 2 28 100
1
0 0 0 Ni
c *** Density of States (DOS) calculation ***
dos data/ni
fcc 6.67 , , , , , ,
0.001 1.2 nrl mjw mag 2nd
update 13 100 0.02
1
Ni 1 0 0 2 28 100
1
0 0 0 Ni

c ***********************************************
c Nickel + 5% Iron
c ***********************************************
c *** Self-consistent calculation ***
go data/ni95fe5
fcc 6.67 , , , , , ,
0.001 1.2 nrl mjw mag init
update 4 100 0.02
1
NiFe 2 0 0 2 28 95
26 5
1
0 0 0 NiFe
c *** Density of States (DOS) calculation ***
dos data/ni95fe5
fcc 6.67 , , , , , ,
0.001 1.2 nrl mjw mag 2nd
update 13 100 0.02
1
NiFe 2 0 0 2 28 95
26 5
1
0 0 0 NiFe


格子定数はCygwinでAkaiKKR(Machikaneyama)のときと同様に a = 6.67 (bohr)としFeの濃度にかかわらず一定となるようにしました。描画する状態密度をきれいにするためにdos計算のbzqltyは前回よりも大きくしてあります。bzqlty=13は、前回のspecx.fの設定を用いたfcc構造の計算では最大の値です。13よりも大きい数を設定すると、計算の途中でspecx.exeが停止します。したがって、これ以上見栄えの良いDOSを描きたければ、specx.fのnk1mxとnk3mxを大きな値に修正した後、再びmakeをする必要があります。

結果


以下に、ニッケルに0-100%の鉄を固溶させた合金を5%ごとに計算した状態密度を示します。


000Fe.png
Fig.2: Pure Nickel

005Fe.png
Fig.3: Nickel + 5% Iron

010Fe.png
Fig.4: Nickel + 10% Iron

015Fe.png
Fig.5: Nickel + 15% Iron

020Fe.png
Fig.6: Nickel + 20% Iron

025Fe.png
Fig.7: Nickel + 25% Iron

030Fe.png
Fig.8: Nickel + 30% Iron

035Fe.png
Fig.9: Nickel + 35% Iron

040Fe.png
Fig.10: Nickel + 40% Iron

045Fe.png
Fig.11: Nickel + 45% Iron

050Fe.png
Fig.12: Nickel + 50% Iron

055Fe.png
Fig.13: Nickel + 55% Iron

060Fe.png
Fig.14: Nickel + 60% Iron

065Fe.png
Fig.15: Nickel + 65% Iron

070Fe.png
Fig.16: Nickel + 70% Iron

075Fe.png
Fig.17: Nickel + 75% Iron

080Fe.png
Fig.18: Nickel + 80% Iron

085Fe.png
Fig.19: Nickel + 85% Iron

090Fe.png
Fig.20: Nickel + 90% Iron

095Fe.png
Fig.21: Nickel + 95% Iron

100Fe.png
Fig.22: Pure fcc Iron


強磁性の消失


ニッケル-鉄合金の強磁性は、実験から約74%Feで消失することが知られています。
今回計算した結果の図は、上半分が上向きスピン、下半分が下向きスピンの状態密度をあらわしています。強磁性の消失は、75%Fe(Fig.17)で上下対称な図になっていることから読み取れます。

不規則合金の電子構造を理解するにあたってリジッドバンドモデル(固定バンドモデル、Rigid band model)が良く持ち出されるが、コヒーレント・ポテンシャル近似と合金の強磁性(金森順次郎 (1972) 固体物理)によると不規則NiFe合金の強磁性の消失は、一見リジッドバンドモデルで説明が付く様に見えるが、平均電子数の変化によるフェルミ準位の位置の変化が本質では無いとのことです。

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したAkaiKKRの入力ファイルを添付します。


参考文献/使用機器






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