トラ技Jr. 仕事で算数⑤ 不良率と正規分布

トランジスタ技術 2012年 07月号には、別冊付録としてトラ技Jr.2012年7・8月号がついてきます。



その中で、チップ抵抗器の抵抗値のばらつきに関する記事があります。
私も以前、似たようなエントリを書いたことがあるので、コメントします。(参考LTspiceモンテカルロ解析の定数分布 その2)


トラ技Jr.のストーリー


課長「君が設計した回路で使う1kΩの抵抗を、100万個くらい買う予定なんだよね。その中の何個くらいが±3%以上の誤差を持つのか予測できないかな?不良品の数を推定して、利益率を計算するのに必要なんだ」

僕「なるほど。わかりました。後で報告をします」


という導入で始まる若手技術者の『僕』が紆余曲折の後、

  1. チップ抵抗200個の抵抗を実測し
  2. ヒストグラムを描き
  3. 山が一つでだいたい左右対称になっていることから、今回の抵抗値の分布は正規分布していると判断し
  4. 標準偏差を求め
  5. 100万個の抵抗の中で誤差3%を超える物の数を予想する
というストーリです。

サンプリングは妥当か?


実を言うと、これと似たような議論を私は以前LTspiceモンテカルロ解析の定数分布 その2のエントリやそのコメント欄にて行っています。

ただし、そこで私たちの出した結論は、トラ技Jr.の『僕』よりもう少しだけ慎重です。

私が測定した抵抗は、10kΩの炭素皮膜抵抗で、公称の誤差は5%以内ということになっています。
このことに反して、私が測定した98本の抵抗は、予想される5%の誤差よりもはるかにばらつきが少なく、3σ(σ:標準偏差)でもおよそ1%で、しかしながら、抵抗値の平均値(ばらつきの中心)は、公称値の10kΩから約1%ずれて9.9kΩでした。


001_20090506142046.png
fig.1: 測定結果のヒストグラム(赤)と正規分布関数(緑)


このことから予想されることは、抵抗値のばらつきには、同一ロット内でのばらつき別々のロット間でのばらつきの2種類があるのではないかということでした。

トラ技Jr.の『僕』のストーリーは、以下のように締めくくられます。

僕「抵抗値は正規分布をしていると考えられます。標準偏差が10Ωなので、抵抗は99.7%の確率で970Ωから1030Ωの間に入ります。」

課長「なるほど、確かに99.7%というのは1000個作って3個の不良が出たという事実とも合うね。よし、この数字を使うよ。ありがとう」

僕「ハイ。今後ともよろしくお願いします」
トラ技Jr.の『僕』のストーリーはここで終わっているので、実際に100万個の量産を行ったときにどうなったのかは分かりません。

予想される最悪のシナリオ



ここで気になるのが、記事の導入部分にある漫画のフキダシ外の書き込みです。

001_20120615025954.png
fig.2: トラ技Jr.の漫画の1コマ


そう『課長』は、チップ抵抗5000個入りのリールを試しに1リールだけ購入したのです。この漫画の内容を考慮に入れた、私の考える最悪のストーリーは以下の通りです。

『課長』は、チップ抵抗5000個入りのリールを1個持って『僕』の所へ現れる。
これを受け取った『僕』は、この中から200個の抵抗を抜き取り、実測を行い、標準偏差を求める。
このリール内の抵抗は、全て同一ロットのものであり、かつ、このロットは比較的『当たり』であったため、抵抗の平均値と公称値の間にはほとんど差が無いものであった。
『課長』は、『僕』に渡した200個以外の残り4800個のチップ抵抗のうち1000個を使って回路を試作。同一のリールから取られたチップ抵抗は当然ながら同一ロットであり、『僕』が予想した分布と完全に一致する。
しかし、『僕』の見積もったばらつきは、同一ロット内のばらつきであり、別々のロット間のばらつきのことを考慮していないため、ロットが混ざった100万個の抵抗を購入すると・・・

量産は大変ですね


というような最悪のシナリオを考えてみましたが、私は回路を量産したことも無いですし、これからする予定も無いので、このような話がどの程度妥当なのかはちょっと分かりません。

あまり現実的な話は、差し当たり置いておくとするならば、限られた標本数から、多数の分布の予想を行うというトッピックは面白いと思います。逆に言えば、ある瞬間における抵抗値を考えるだけで、経年変化や温度変化を考えずに定数を決めてしまうあたり、そもそも理想的な『お話』だという見方も出来ますし。

ねがてぃぶろぐは、電子工作趣味人による電子工作趣味人のためのブログなので、こういう『プロ』を意識した(学生向けの)内容に関しては、何も言えません。
抵抗のばらつきに伴う量産品の性能のばらつきの実際・・・といったような話を、本業の方から聞いてみたいような、知りたくは無いような微妙な心地です。

関連エントリ




参考文献/使用機器




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tag: トランジスタ技術 LTspice モンテカルロ解析 

comment

Secret

0.3%も不良がでる抵抗なんてあり得ないと思います。

初めまして。HN先と申します。
最近LTSpiceを一から勉強しておりまして、貴BLOGが大変参考になりブックマークさせて頂いています。
この記事、Trジュニアを読んだ訳ではありませんが、非常に面白い記事ですのでコメントさせて頂きます。
引用されているTrジュニアの記事
「100万個の抵抗から誤差3%を逸脱する割合を予測せよ」
と言うのはおかしな話です。
私は抵抗を使う立場でして、抵抗メーカの立場は判りませんが、抵抗メーカは製品の製造・出荷工程で全数検査して出荷しているはずで、規格の3%を外れる製品は出荷されないはずです。
製造初期工程では誤差が正規分布するかもしれませんが、後工程でトリミングし、検査工程で分布の最低値、最高値付近を切り捨てるはず。
もし3%誤差を逸脱するものが0.3%もあればそれは大問題になります。

Trジュニア記事の課長が「なるほど、確かに99.7%というのは1000個作って3個の不良が出たという事実とも合うね。」という発言は短絡的です。
この1000個の製品というのは抵抗1個だけが組み込まれた製品でしょうか?複数の部品が実装されている製品ならそれらの不良率、故障率も考慮しなければならないし、製品製造工程で不良発生も考えられます。不良原因を調査して抵抗誤差が3%を逸脱していたことが判明していたらなら話は別ですが。

仕事として少数ロットの製品を設計・製造していますが製品不良原因は
・設計不良(半導体規格外での使用、C,Rの誤差を考慮していない、部品仕様に現れない部品の特性など。)
・製造工程(いままで遭遇した不良で設計不良を除くほぼ全数が製造工程での不良です。)
・輸送工程(大型機器はユーザ側に設置完了まで気が抜けません。)
・偽物使用(某国から買った部品が偽物だったという話は事実です。)

Trジュニアの記事は正規分布お勉強用の「物語」にしか過ぎないのでしょうが、新人に抵抗の信頼性について誤った情報を植え込む可能性もあります。

このコメントを書くにあたりwebを検索してたら抵抗製造について面白い記事がありましたので
紹介させて頂きます。
「誤差5%の抵抗の作り方」でgoogle検索してみて下さい。コメントにURLを書くと
スパムとしてはじかれそうなのでこのような紹介となっております。

今後ともどうかよろしくお願いします。

Re: 0.3%も不良がでる抵抗なんてあり得ないと思います。

先さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

まず、表題の件ですが、トラ技Jr.の本文中で、測定された抵抗器の公称誤差が3%であるという記述はありません。そう思えば、抵抗器の不良が0.3%もあるおかしな問題設定であるとは言い切れ無いと思います。
(例えば公称誤差5%の抵抗を購入してきて、実力値で誤差3%以内に入っていそうなら使ってしまうというストーリーなのかもしれません。それはそれで色々とミスリーディングだとは思いますが。)



さて、紹介していただいた記事は、こちらですね。

誤差5%の抵抗の作り方
http://ednjapan.com/edn/articles/1010/01/news120.html

この記事は大変参考になりました。
というのも、各所でそういった噂を聞いていたので、以前から気になっていたのです。

まず、RJBさんにブログで私の記事を紹介していただいたときに、コメント欄にてChuckさんが、『URLのように秋月キンピ1%ものを300本 測ったことがあります。しかしまったく正規分布な気がしませんでした。確かに1%なんですけど、ヒストグラムはメディアン抜けのようです。』と言及されていました。

RJBlog: 抵抗の許容差
http://www.rjblog.net/archives/2009/e000318.php
電音の工場ブログ: 300本ノック
http://emusic.g.hatena.ne.jp/Chuck/20081229/p1

また、2ちゃんねるの電気電子板でも似たような議論がされたことがあります。

電子工作入門者・初心者の集うスレ 38(キャッシュ)
http://logsoku.com/thread/uni.2ch.net/denki/1323437853/836-

総合すると、誤差5%のカーボン抵抗は(最近では)選別などはされていない場合が多いが、誤差1%の金属皮膜抵抗は最近でも選別をされている可能性があるということかもしれません。



トラ技Jr.は、トランジスタ技術のサイト(http://toragi.cqpub.co.jp/tabid/512/Default.aspx)にて、下記のように紹介されています。

『全国の高校,高専,大学,専門学校の生徒に,先生が直接手渡す小冊子です.
第一線のプロが現場の生きた技術をかみくだいて解説するもので,トランジスタ技術の強みである実用性を重視しています.(後略)』

抵抗の誤差が3%を超える数を調べたいというかなり大雑把な問題設定は『かみくだいて』の部分に相当するものと思います。
一方で、『実用性を重視しています』というくだりは、トラ技Jr.の記事の読者が実際にやってみることを想定しているのだろうか?と感じました。

もし、トラ技Jr.の記事を読んで抵抗の実測を行った読者がいたとするならば、本エントリで扱ったような『平均値と公称値のずれ』やご紹介いただいたような『正規分布からのずれ』など標準偏差だけからは議論できないような問題に直面するであろうことは想像に難くありません。

VAという上からの命令

gomisai様
拙コメントにお答え下り大変ありがとうございます。

>(例えば公称誤差5%の抵抗を購入してきて、実力値で誤差3%以内に入っていそうなら使ってしまうというストーリーなのかもしれません。それはそれで色々とミスリーディングだとは思いますが。)

物語の課長さんはVAでも考えているのかな?
1/4~1/10W、誤差1%の抵抗は100万個買っても精々数万円でしょう。その数万円の数分の1をケチってあとでトンデモナイことになったどうする積もりでしょうね。

ご紹介頂いたURL早速チェックさせて頂きます

今後ともよろしくお願いします。
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