LTspiceと他の回路シミュレータの比較

アマチュアが利用できるSPICEは何種類か存在します。
では、どのSPICEを選ぶのがベストなのか?

多くの場合LTspiceが最善の選択肢です。
LTspiceは回路規模無制限であるという最大の長所があり、最近のPCの処理能力を考えれば、ほとんどの場合、力技で何とかなってしまうからです。


SPICEとは


LTspiceはSPICEから派生した、いわゆる商用SPICEのひとつです。
SPICEは、Simulation Program with Integrated Circuit Emphasisの頭文字をとったもので、その名前の通り回路シミュレーションを行うプログラムです。カリフォルニア大学バークレー校で1973年に開発されました。

このバークレー版SPICEをもとにして、各種のSPICE互換ソフトウエアが開発されました。
有名どころとしては、OrCad/PSpiceやCircuitMakerがあり、本家とまとめてSPIECと呼ばれます。もちろんLTspice/SWCADもSPICEの一種です。

実際に回路シミュレータがどのように使われるかは、回路シミュレータの使いどころに書きました。

日本のSPICE事情


私の主観的な印象ですが、日本のアマチュア電子工作趣味人の間で良く使われているSPICEは、LTspiceを以外では、一番多いのはPSpiceで、CircuitMakerも多く、回路シミュレータを使いこなしている方の中にはSIMetrix/SIMPLISを推している事もちらほら、と言ったところでしょうか。

多くの方にとって関心があるのは、結局どのSPICEを使えばよいのかと言うことでしょう。私がお勧めするのは、当然LTspiceなのですが、その話の前に、なぜこのような勢力分布になったのかを想像してみます。

以下に、日本で過去に発売された主要な回路シミュレータの入門書を発売順に列挙します。



日本でSPICEが普及するきっかけとなったのは、電子回路シミュレータSPICE実践編によると、1980年に岡村廸夫氏がトランジスタ技術誌にてPSpiceの紹介を行い、後にPSpiceの評価版ver.5を岡村氏が開発したユーティリティ・ソフトと共に廉価で発売したためであるとされています。

その後、CQ出版社が取り上げてきた回路シミュレータは、PSpiceとMicro-Capのふたつのようで、この影響は現在も継続しており、日本のアマチュアSPICEユーザーはPSpiceユーザーが最大勢力となっています。

2001年にブルーバックスからCircuitMakerのStudent版が付属した電子回路シミュレータ入門(ブルーバックス)(の初版)が発売されます。これはふたつの意味で画期的だったと思います。ひとつとしては、CQ出版ではなく、より大衆的なレーベルであるブルーバックスから発売されたと言うこと。もうひとつとして、定価が非常に安いと言うことです。
このブルーバックスのおかげで、回路シミュレータの利用者層が広がったであろう事は想像に難くありません。

2003年、CQ出版から電子回路シミュレータPSpice入門編が発売されます。私がSPICEの入門書に使ったのもこの本です。(この本を読みながらLTspiceを使っていました。)

そして、2005年に電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISスペシャルパックが発売されます。約16,000円と高価な本ではありますが、著者が良書が多いことで有名な黒田徹氏であり、回路シミュレータ自体も高機能で使いやすかったため、ある程度の出費を覚悟できるモチベーションの高いユーザの間で一押しのシミュレータとなりました。

電子回路シミュレータLTspice入門編が発売されたのは、昨年の2009年のことです。

以上のシミュレータは、いずれも無料でダウンロードして使用(試用)することができるものでした。現時点(2010年1月現在)では、CircuitMakerだけはブルーバックするを購入しないと入手できないようです。





回路規模無制限のLTspice


無料の回路シミュレータには、機能制限があることが少なくありません。
以下にこれまであげた代表的なSPICEの機能制限を一覧表にまとめます。

ノード数制限部品数制限その他制限
LTspice無制限無制限-
PSpice ver.9.2 Lite64ノード--
SIMetrix 5.0/CQ120ノード点数制で378点まで-
Micro-Cap9/CQ約100ノード50解析速度制限
CircuitMaker Student-50モンテカルロ不可, 部品追加不可
table.1: 無料SPICEの機能制限


表を見て一目瞭然ですが、LTspiceは回路規模に制限が無いことが際立っています。
SIMetrixは、部品数制限が分かりにくいですが、回路規模制限があるシミュレータの中では、比較的ゆるい方であるようです。
Micro-Capは・・・見るべきところが無い気がします。
CircuitMakerは、モデルの追加が不可能である反面、初期状態でのライブラリが充実しているようです。しかしながら、回路規模制限がかなり厳しいので、やはりお勧めできません。

SIMetrix/SIMPLISは、LTspiceに比べていくつかアドバンテージがあります。
また、LTspiceにはない種類の解析をもっています。

  • リアルタイム雑音解析
  • スイッチング回路のAC解析
  • 非SPICEのスイッチング回路用シミュレータ(SIMPLIS)をもっている


LTspiceと比較して検討の価値があるのは、SIMetrix/SIMPLISだけだと感じていますが、結局私はLTspiecだけで何とかすることにしました。

LTspice vs SIMetrix/SIMPLIS


SPICE系シミュレータは、その性質上スイッチングを含む回路(スイッチング回路)の解析を不得意としています。
LTspiceは、SPICEでありながらスイッチング回路の解析で収束性がよくなるように改良されているということです。

一方で、スイッチング回路のシミュレーションにはSPICEでないシミュレータを使うと割り切ったのが、SIMetrix/SIMPLISです。
SIMetrixはSPICE系のシミュレータで、SIMPLISはスイッチング回路解析用のシミュレータです。回路図エディタを共用しているため、SIMetrixで解析できなかった回路をSIMPLISで解析すると言った使い方ができます。電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISスペシャルパックによると、SIMPLISはSIMetrixの10~50倍高速だと書いてあります。

では、LTspiceで解析に時間がかかるスイッチング回路はSIMPLISで解析すればよいのかというと、今度は回路規模制限に引っかかります。LTspiceは回路規模無制限なので、ADCの並列動作 その2のような回路も時間がかかりますが力ずくでシミュレーションできてしまいます、一方、SIMetrix/SIMPLISでは回路規模制限からそもそもシミュレーションができません。


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fig.1-2: LTspiceでの大規模なスイッチング回路のシミュレーション例


ただ、インターフェースはLTspiceのようにぶっきらぼうではありませんし、解説書である電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISスペシャルパックは、内容的にも面白いです。
メーカー製マクロモデルの追加手順が非常に簡単であることも、特筆すべき点です。わたしは、74HC4053のモデルをLTspiceに組み込むとき非常に苦労しましたが、SIMetrix/SIMPLISではドラッグアンドドロップだけで使えるようになりました。
総合すると、SIMetrix/SIMPLISもなかなか悪くない選択肢です。

関連エントリ




参考URL




参考文献




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使ったことありませんが・・・

使ったことありませんが、TINAというのがあるみたいですね。本屋さんで本を見かけたことがあります。
http://focus.tij.co.jp/jp/analog/docs/enggresdetail.tsp?familyId=57&genContentId=1031
制約がきつそうですが、TIのマクロモデルが組み込まれているあたりに魅力を感じます。

LTspiceは、

最近のLTspiceは、リニアテクノロジの売り文句によると、マルチプロセッサに対応しています。そのため、タスクマネージャで見ていると100%までCPUを使ってくれます。

他のシミュレータでは、どうなんでしょうか。

Re: 使ったことありませんが・・・

Simさん、こんにちは。
ご紹介ありがとうございます。

実を言うと、TINA-TIは比較的最近回路規模が無制限になりました。
http://focus.tij.co.jp/jp/docs/toolsw/folders/print/tina-ti.html
現時点では、あまりメジャーでなかったため取り上げませんでしたが、LTspiceと比較をしている方も居るようです。
http://science6.2ch.net/test/read.cgi/denki/1248256752/14-19

アナログICメーカにとって、SPICEはアナログICの宣伝に使えると言うことでしょうか。
ANALOG DEVICESもSPICE(NI Multisim Analog Devices Edition)を公開しています。
こちらはいまだに回路規模制限が厳しく、部品数制限が25までと言うことです。
アナログ・デバイセズのマクロモデルを手軽にシミュレーションしたいときには便利ですね。
http://www.analog.com/jp/design-tools/dt-multisim-spice-program-download/design-center/index.html

あとは非SPICE系シミュレータとしてQUCSの名前も出したかったのですが、エントリが長くなってしまうのでやめました。ソフトが日本語化されているので、とっつきやすく感じる人もいると思います。
http://www.sp.es.yamanashi.ac.jp/~ohki/qucs/qucs.html

まあ、私はどれも使ったこと無いのですが。

Re: LTspiceは、

のりたんさん、こんにちは。

マルチコア対応もLTspiceの強みですよね!
・・・と、言いたいところなのですが、お恥ずかしながら私のメインマシンのCPUはいまだにシングルコアのPentium4なのです。
そんな状態なので、マルチコアの対応状況は、すみません、ちょっと分かりません。

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回路制限

回路制限のノード数とはどういう意味でしょうか?
現在LTspiceとSIMetrixでどちらで勉強を進めていくか迷っています。
スイッチング電源を設計していて仕事で使うことを想定していますのでSIMetrixがいいのかと思ってはいるのですが最終的に制限でできないということにならないか確認したく教えてください。

Re: 回路制限

tentenさん、こんにちは。

> 回路制限のノード数とはどういう意味でしょうか?
回路図上で、ワイヤーやラベルで結ばれたところは、つながっていて全く同じ電圧であると考えますよね?
その「つながっていて全く同じ電圧である部分」がひとつのノードです。

例えば、以下の様な電源とダイオードだけをつないだ回路ならノードの数は「GND」と「anode」の2つ。
http://blog-imgs-31-origin.fc2.com/g/o/m/gomisai/002_20100306113832.png

2石弛張発振回路なら「base」「anode」「GND」にくわえてラベルが付いていない「Q1のコレクタとQ2のベースがつながっているノード」「Q2,R1,V1がつながっているノード」の5つのノードをもっています。
http://blog-imgs-31-origin.fc2.com/g/o/m/gomisai/003_20100111051422.png

ただし、回路図上でひとつのICで表現されている回路であっても内部にたくさんのノードをもつこともあるので注意が必要です。例えば以下のTL431の等価回路を回路図上で3本足の部品に見せかけることも可能で、その場合は見かけよりもはるかにノード数を消費していることになります。
http://blog-imgs-31-origin.fc2.com/g/o/m/gomisai/003_20091127142014.png

シミュレーション

なるほど、わかりやすい説明ありがとうございます!
LTspiceでSIMetrixのアナログビヘイビアのようなものはありますか?
SIMetrixは電源のみではなくいろんな用途で使えて使いやすかったんですが…

Re: シミュレーション

tentenさん、こんにちは。

LTspiceでアナログビヘイビアといえば、下記のエントリのものです。

LTspiceでビヘイビア電源ほか
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-477.html

ありがとうございます

ありがとうございます。
勉強してみます!
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