ADCの並列動作 その1

トランジスタ技術2009年1月号に「汎用マイコンで500kHzサンプリングとストレージ動作を実現 8パラAVRでA-D変換するUSBオシロスコープ」という記事があります。このトラ技の記事では、A/Dコンバータを並列動作させることによって、見かけ上サンプリングレートが高速のA/Dコンバータとするというテクニックを使っています。
しかし、ADCの入力回路にはローパスフィルタとしての特性があるため、無制限にサンプリングレートが上げられるわけではありません。

今回は、AVRのA/Dコンバータの入力回路のモデルを作成し、交流解析を行いました。

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トラ技2009年1月号の8パラAVRオシロスコープ


トランジスタ技術2009年1月号に「汎用マイコンで500kHzサンプリングとストレージ動作を実現 8パラAVRでA-D変換するUSBオシロスコープ」という記事があります。
PICやAVRといったマイコンには、A/Dコンバータモジュールを内蔵したモデルが存在します。しかしながら、これらのA/Dコンバータは変換時間として10us~100us程度を要求するため、高速なサンプリングを行うことができません。

トラ技の「8パラAVRでA-D変換するUSBオシロスコープ」の記事では、A/Dコンバータを持つAVRを8個並列に接続し、位相をずらしてサンプリングすることによりサンプリングレートを高めたUSBオシロスコープの製作を行っています。

この記事に対して私は、次のような疑問を持ちました。
  • ADC並列化による高速化に限度はないのか
  • あるとすれば、いかなる原因であろうか


これらの疑問に答える鍵となるのは、A/Dコンバータの入力部分であるサンプル&ホールド(S/H)回路です。

逐次比較型(SAR)A/Dコンバータ


逐次比較型のA/Dコンバータは、その構造上、変換中にアナログ入力電圧が変動すると正しく変換を行うことができません。そこで、変換の前段に入力電圧を保持するためのS/H回路を持っています。
以下に示すのが、ATmega644Pのデータシートから引用したA/Dコンバータの入力回路です。


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fig.1: AVRのS/H回路


この図から読み取れるとおり、A/Dコンバータの入力回路は(アナログマルチプレクサやサンプリングスイッチの)抵抗とサンプリングコンデンサによって、ローパスフィルタが構成されています。したがって、S/H回路自体が周波数特性を持っていることになります。

また、だいぶ昔のエントリになりますが、PICのA/Dコンバータの入力回路に関しては、A/Dコンバータ その1その2で書きました。参考にしてください。

サンプリングレートと帯域


デジタルオシロスコープの動作速度を表すパラメータとして、サンプリングレートがよく用いられます。一方で、アナログオシロスコープにはサンプリングレートという概念はなく、速度は帯域で表されます。
ところが、デジタルオシロスコープといえど入力段はアナログ回路です。したがって、この入力段の回路にも周波数特性があるはずです。

S/H回路の周波数特性


fig.1で挙げたAVRのデータシート上の入力回路をLTspiceを用いたシミュレーションにかけてみました。


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fig.2: AVRのADC入力段スケマティック


入力端子のバイアス電流源は、信号源の出力インピーダンスが低いとして無視し、サンプリングスイッチは閉じたままという条件で交流解析を行いました。
(シミュレータ上で並列化することを想定して、ボルテージフォロワとアナログマルチプレクサを追加してありますが、今回は特に利用していません。)


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fig.3: 出力電圧(実線)と位相(破線)


上のグラフがサンプリングコンデンサの電圧です。
当然ですが、普通のローパスフィルタです。


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fig.4: サンプリングコンデンサの電圧と入力信号の間の誤差


fig.4は、入力信号と読み取った信号の誤差をあらわしたものです。縦軸はログスケールで単位はVです。

ADCの交流特性


このように、A/Dコンバータの入力回路にも通過可能な帯域が存在します。しかしながら、同時に通常のサンプリングレートによる制約も存在します。
最終的なADCの交流特性は、これら二つの要因のうちより低周波側から主要になる方に制約されるであろうと考えられます。

このため、A/Dコンバータを並列接続することはサンプリングレートの向上には貢献しますが、一方で入力回路自体が変わっていないので、並列数を増やしていくといずれローパスフィルタの帯域の壁にぶつかるだろう事が予想されます。

関連エントリ




付録


このエントリで使用したLTspiceのシミュレーション用ファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。


参考文献




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