<赤ちゃんポスト>新生児でなく…病院側はノーコメント

<赤ちゃんポスト>新生児でなく…病院側はノーコメント


<赤ちゃんポスト>新生児でなく…病院側はノーコメント
5月15日13時26分配信 毎日新聞 熊本市の慈恵病院に国内で初めて設置された「赤ちゃんポスト」への預け入れ第1号は、対象としていた新生児ではなかった。10日の開設初日に3歳とみられる児童が預けられていたことが15日分かった病院には早朝から報道陣が詰めかけたが、病院側はノーコメントを繰り返した。 病院は、この日も通常通り午前8時半から外来の受け付けを始めたが、報道陣には「患者が不安がる」などとして取材の自粛を求めた。当初から個別ケースの発表はしない方針を打ち出しており、「新生児以外は想定外のケースか」などの問いかけにも、担当者は「守秘義務があるのでご理解いただきたい」。 敷地内には「ポスト」を利用する前に相談を促すため、入り口近くなど目立つ場所に病院や行政機関の電話相談窓口を知らせる看板などが設置されているが、預けたとみられる父親からの相談はなかった模様だ。 設置を許可した熊本市の幸山政史市長も「現時点ではコメントできない」と事実確認に応じなかった。「人権と健やかな成長を見守る観点から個人を特定する情報は出せない」というのが理由。今後については「社会的な関心も高いと思う。一切公表しないつもりはない」とも述べた。【門田陽介、谷本仁美】

Wikipediaの赤ちゃんポストの項目によると、慈恵病院に設置されたこうのとりゆりかごが保護対象とする赤ちゃんに関しては以下のようにあります。

なお、ポストに入れるのは生まれてから2週間以内の子供という条件があり、新生児への命名は熊本市長が行なうとしている。

今回のケースで預けられた児童は3歳ということなので、本来こうのとりゆりかごが対象としていたケースとは異なります。記事によると病院側は「新生児以外は想定外のケースか」などの問いかけにもコメントをしていない模様です。

さらに他の記事では以下のように報じられています。

「赤ちゃんポスト」運用初日に想定外の3歳児

「赤ちゃんポスト」運用初日に想定外の3歳児
5月15日13時24分配信 読売新聞 親が養育できない新生児を匿名で託す熊本市の慈恵病院(蓮田晶一院長)の「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」に、運用初日の今月10日、3歳とみられる男児が預けられていたことが15日、わかった。 男児は、父親に連れて来られて赤ちゃんポストに入れられたと話しているという。 熊本県警は保護責任者遺棄罪に当たるかどうか調べている。想定していた「赤ちゃん」ではなかったことで、「養育放棄を助長しかねない」との声が強まりそうだ。 関係者によると、男児が預けられたのは、運用を開始した10日正午の2、3時間後らしい。男児は名前を名乗り、3歳と話している。話の内容から、熊本県外から連れて来られたとみられる。健康状態は良好で、身元を示すものはないという。県警は男児の身元を特定したうえで、保護者から事情を聞く方針。

病院側の対応とは違い、熊本県警は男児の身元を特定したうえで保護者に事情聴取、場合によっては逮捕するという姿勢を示しています。

運営開始前から賛否両論であったこうのとりゆりかごですが、利用者第一号からこの問題を考える上で興味深いケースとなってしまいました。

まず報道陣から病院側になされた「新生児でない児童が預けられたのは想定外のケースであるか。」という問いについてです。もちろん、利用者第一号がいきなり対象外の年齢の児童であったというのは病院側としては不意打ちではあったとおもいますが、新生児以外がこうのとりゆりかごに入れられる可能性は十分想定の範囲内だったと思います。極端な話、預けられたのが生きている人間であっただけでも予定に近い使われ方であろうと思います。
匿名性が保たれているのならば何をやってもよいのかといった批判は、新生児を預ける行為にも当てはまることでありますし。

次に、結果的にこうのとりゆりかご利用者第一号の匿名性は守られないことになるであろうという点です。以前のエントリにも書いたようにこうのとりゆりかごの最大の特徴は利用者の匿名性であると思います。
しかし、今回の件では警察が身元を調べる模様です。如何に監視カメラなどがついていないとはいえ警察が本気で調査をしたら保護者の特定は容易でしょう。なにより預けられた3歳の児童という証言者もいることですし。

では、仮に預けられたのが想定内である生後2週間以内の新生児であった場合は利用者の匿名性は守られるのでしょうか?そこで慈恵病院のウェブページ内の2-4. ゆりかごのシステムについて(フローチャート)をみてみます。

このフローチャートによると、こうのとりゆりかごに赤ちゃんが預けられた場合、おおまかには次のような流れとなります。

(1)ゆりかごに赤ちゃんが置かれる。
(2)ブザーが鳴りスタッフが赤ちゃんを保護するため駆けつける。
(3)医師による健康チェック(結果により処置)。
(4)児童相談所・警察署・市役所へ連絡。

という流れになります。ここで問題になるのが(4)です。

病院側は利用者のプライバシー保護のために、できる限りのことをします。監視カメラを取り付けないといったことや、今回の件でマスコミに対してコメントを控えているといった点もそういった理由でしょう。
一方、児童相談所や警察、市役所に連絡しないわけにも行きません。一民間病院がこっそり独自の判断で人間を育てるなどというのはあってはならないことですし、当然です。
しかし、この2つの間には当然ながら矛盾が存在しているのが分かるでしょう。病院側は利用者のプライバシーを守るという目標を掲げながらも、完全に病院外に情報を出さないわけには行かない。結局のところ利用者のプライバシーが守られるか否かは情報を提供する先の判断にゆだねられるというわけです。

さて元の問題に戻りますが、今回預けられたのが想定内の生後2週間以内の新生児であった場合は利用者のプライバシーは本当に守られたのでしょうか?警察は今回の件を保護責任者遺棄罪に当たるかどうかを調べている最中であるとあります。
言い換えると保護責任者遺棄罪に当たる可能性があるため保護者の特定を行おうとしているわけです。しつこい様ですが生後2週間以内の新生児が預けられたのなら保護責任者遺棄罪の可能性はないのでしょうか?警察は保護者の特定をする必要はないのでしょうか?

3歳児なら証言が出来るから保護者の特定も容易でしょう、一方新生児の場合保護者の特定は比較的困難になるとは思いますが、警察の組織力を持ってすれは、すべてのケースで不可能というわけではないでしょう。これでは結局のところ利用者の匿名性に関しては何の保障も無いということになります。

(かなりうがった見方ですが、このように考えると2つの元記事に関しての表記の違いすら気になってきます。病院側への取材をメインにすえた上の毎日新聞の記事では預けられたのは3歳の児童とあり性別に関しては言及されていません。一方、警察の方針をメインにすえた読売新聞の記事では男児と児童の性別に関しての記述があります。読売新聞記事中の関係者がどの組織に属する人間かはっきりしないのでなんともいえませんが、児童の性別に関する言及に関して病院側と警察側の情報公開に関する意識の違いが出ていると・・・まぁ、深読みすることも出来ます。多分ただの新聞社による表記の違いだと思いますけど。)

匿名性が保障されないと書きましたが、逆に警察が保護された子供の身元の確認作業を行わないという判断に至った場合もまた問題です。仮に今回の3歳児のケースでは身元の確認作業を行い、想定内の生後2週間以内の新生児のケースでは身元の確認を行わないという判断を警察がしたとしたらどうでしょう。
これは、極端な言い方をすると生後2週間以内の新生児なら捨てても保護責任者遺棄罪に問われないと言っているのとかわらないことになります。もちろん、こうのとりゆりかごに預けるのとその辺に捨てるのとでは天と地の差があるわけですが、こうのとりゆりかごが公的に認められた保護機関というわけではないので、法的にみれば現時点では同じではないでしょうか。

その反対に、すべてのケースに対して保護責任者遺棄罪の疑いがあるとして警察が捜査を行う場合はどうでしょうか。こっちはこっちで問題となると思います。もちろん、病院側が匿名性をいくらうたっても現実は匿名性を保障できないという点もありますが、それ以前に病院が保護責任者遺棄罪の幇助に問われることになるのではないかと思います。こうのとりゆりかごに新生児を預けた保護者が保護責任者遺棄罪に問われることを知りながらもその場を提供したことになるからです。

では、これらの問題に対しての解決策は何でしょうか。ひとつの方法はこうのとりゆりかごは違法であるという判断を下してしまうことです。こうのとりゆりかごを撤去してしまえば、このようなことに頭をひねる必要はなくなります。そして、新生児は今までどおりこっそりと捨てられることになるでしょう・・・。もうひとつの方法は、こうのとりゆりかごを条件付で(あるいは無条件に)合法としてしまうことですが、これはまさしく今回と同じ問題に直面することになります。すなわち、どのように条件を設定するか(あるいはしないか)をはっきりさせなければならないということです。全く何の論理的根拠も無く生後2週間以内の新生児なら匿名で預けることが出来るが3歳児を匿名で預けるのは違法というわけには行かないでしょう。

そういった意味で、今回の件はこうのとりゆりかごが潜在的に抱えていた問題をはっきりと表面化させたといってよいでしょう。(そういった意味では、下の読売新聞の記事にある「想定していた「赤ちゃん」ではなかったことで、「養育放棄を助長しかねない」との声が強まりそうだ。」という主張はまったくの的外れであると思います。)


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