超音波距離計 第三回:受信回路の交流解析


前回の受信回路のうち、初段の増幅回路についてAC解析を行いました。
くどいようですが、C2に並列に挿入されているR7=100MΩは、シミュレーションの初期値を与えるための抵抗です。現実の回路には必要ありません。






グラフの実線は出力ノードAMP1の電圧です。破線は位相です。
AC入力電圧を1Vに正規化したので、グラフ中のデシベル表記はゲインと考えることが出来ます。

注目すべき点は3つあります。
・低周波から50kHz程度までゲインが大きくなっている点。
・50kHzから高周波に向けてゲインが小さくなっている点。
・ゲインが最大になるのが50kHz付近である点。

ある周波数fcを中心に、その前後のゲインが周波数に応じて減少していく回路をバンドパス・フィルタと呼びます。上の回路の特性はバンドパスフィルタの特性であるように見えます。
バンドパスフィルタは、特定の周波数の信号だけを通す用途に使われます。
今回考えている超音波距離計は、40kHzの信号を扱うため、40kHzを中心周波数としたバンドパスフィルタを使うことは理にかなっています。上記の特性は中心周波数こそ50kHzですが、40kHz付近でも十分高いゲインを持っておりまずまずといったところでしょう。この特性を示すパラメータは、日セラの[空中用超音波センサ(PDF,433KB) http://www.nicera.co.jp/pro/ut/pdf/pdfut001.pdf]の資料のP6の3.受信回路にあるもので、趣味の電子回路工作さんの回路秋月電子通商の超音波デジタル距離計・キットの回路(PDF,2.72MB)にも利用されているものです。

グラフはバンドパスフィルタのような特性を示しているといいましたが、実を言うとこのOPアンプ回路はハイパスフィルタと呼ばれる回路です。
ハイパスフィルタの特性は、ある周波数fcよりも低周波に行くにつれてゲインが減少するというものです。この周波数fcをカットオフ周波数といいます。






上に示すのが、通過帯域のゲインが0dB(1倍)のハイパスフィルタのシミュレーションです。
カットオフ周波数の正確な定義は、ゲインが-3dB(1/√2倍)となる周波数です。グラフからおよそ16kHz辺りであると読み取ることが出来ます。

OPアンプを用いた1次型ハイパスフィルタのカットオフ周波数は、以下の式から求められます。




fc = 1/(2π*Rs*C)

C=1000p,Rs=10k,Rf=10kとして計算するとfc=15.9kHzとなり、シミュレーション結果と一致します。
これが、注目すべき点の一つ目である「低周波から50kHz程度までゲインが大きくなっていること」の理由です。

次に、注目すべき点の二つ目「50kHzから高周波に向けてゲインが小さくなっていること」の理由についてです。
これは、OPアンプのGB積の影響によります。
理想的なOPアンプは、すべての周波数帯域に対してフラットなゲインを持つことが期待されます。しかし、現実のOPアンプは低周波よりも高周波の増幅を苦手としており、高ゲインのアンプを構成すると周波数に応じてゲインが減少していくという特徴があります。
多くのOPアンプは、周波数が倍になると取れるゲインが半分になる(-6dB/oct.)ので、取れるゲインと周波数の積をGB積というパラメータとして扱います。
GB積は、Gain Band-width productの略で日本語では利得帯域幅積とよばれます。GBWと書く場合もあります。




新日本無線のデータシートによると、NJM4580のGB積は標準値で15MHzです。






上に示したものは、通過帯域の出力が0dB(1V)となるように入力電圧を正規化した40dBの反転増幅回路のシミュレーションです。
グラフから-3dBとなる周波数が150kHz程度であることが読み取れます。

100倍のゲインを持つ反転増幅回路の出力が、-3dB減衰した100/√2倍の増幅率になる周波数は、GBW=15MHzとすると

15*10^6 /(100/√2)=212.1kHz

グラフから読み取った150kHzと、まぁまぁ一致しているといってよいでしょう。






上に上げた回路は、最初の回路図を通過域での出力が0dB(1V)となるように入力電圧を正規化するよう描きなおしたものです。
このグラフにおける低周波側で、出力が-3dBとなる周波数はグラフから14.5kHz付近であることが読み取れます。また、同様に高周波側で、出力が-3dBとなる周波数は166kHz程度となります。
これらの特性は、ここまでで触れたハイパスフィルタとしての特性とGB積の影響によるものであると分かります。

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ここまでが今回のお話です。以降は、おまけのようなものだと思ってください。

ローパスフィルタの特性のほうはともかく、高周波の減衰特性はOPアンプのGB積に依存したものです。したがってNJM4580よりもGB積で劣るOPアンプを選択した場合は超音波距離計の性能を引き出すことが出来ません。






OPアンプとしてNJM4580を選択したものと、GB積をはじめとする交流特性で劣るLMC662を選択した場合の初段のアンプの交流特性をシミュレーションしました。
LMC662を使ったものはNJM4580を使ったものよりもゲインが最大になる周波数が低周波側に移動しており、32dBしかありません。そしてゲインのピークが15kHz辺りにあります。15kHzはぎりぎり可聴域でしょうか。






GB積不足が原因であるので、そもそもゲインの小さい2段目のアンプでなら、LMC662を使ったとしても40kHz付近で20dB(100倍)を確保できます。
超音波距離計は、2段の増幅器でトータル60dB(100,000倍)のゲインを確保したいということなので、2つのOPアンプに30dBずつ負担させるようにすると、LMC662でもぎりぎりなんとかなるかもしれません。






とはいえ、LMC662の性能ぎりぎりを使っていることですし、個体差のこととかを考えるとこんな回路は使う気にはならないですね。
もっとちゃんとした高速OPアンプを使ってバンドパスフィルタを組んだほうがいいでしょうね。

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今回のシミュレーションのモデルの入手元は前回のものに加えて
LMC662 - ナショナルセミコンダクタ


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