AkaiKKRでハーフメタル

第27回のCMDワークショップAkaiKKR(machikaneyama)の実習で習ったハーフメタルの計算を復習するために、シェルスクリプトを作成して、片っ端から計算しました。

CrAs587.png

Fig.1: 閃亜鉛鉱(zinc blende)構造のCrAsの格子定数を a = 5.87 Å としたときの状態密度。このようにアップスピン側が金属的なバンド構造で、ダウンスピン側が半導体的なバンド構造を持つ物質をハーフメタルと呼ぶ。



ハーフメタル


第27回のCMDワークショップAkaiKKR(machikaneyama)の実習で、ハーフメタルの計算を習いました。
ハーフメタルとはFig.1に示すような、アップスピン側のバンドが金属的、ダウンスピン側のバンドが半導体的なバンド構造を持つ物質の事を指します。紛らわしいですがecaljで半金属α-スズで計算した半金属(セミメタル)とは別の概念です。

ハーフメタルは強磁性体となり、そのスピン磁気モーメントは必ずボーア磁子の整数倍になります。これは以下のような理由からです。
まず、ダウンスピンは、価電子帯のすべてのバンドが埋まっているので、電子数は整数値になります。そして、全電子数からダウンスピンの電子数を引いた残りも当然ながら整数になります。従って、アップスピンとダウンスピンの電子数の差であるスピン磁気モーメントも必ず整数になるわけです。

今回計算する半金属の候補は以下の6つの化学組成のものです。
  • CrP
  • CrAs
  • CrSb
  • MnP
  • MnAs
  • MnSb

これらの標準状態の結晶構造は、必ずしも閃亜鉛鉱(zinc blende)構造ではないのだと思いますが、閃亜鉛鉱構造をもつ色々な物質を基板として、その上に結晶を成長させることにより、閃亜鉛鉱構造をもち、かつ、さまざまな格子定数となる半金属を実際に作成することができるとの事です。

今回計算する格子定数は 4.98, 5.45, 5.65, 5.87, 6.06, 6.10, 6.48 Å の7種類です。

化学組成と格子定数の組み合わせによって、半金属になる場合とならない場合があります。
第27回のCMDワークショップでは、受講者が分担して各組成の計算を行いましたが、今回はすべての組成と格子定数を一気に計算するシェルスクリプトを作成しました。

計算手法


いつもどおり、入力ファイルのテンプレートをあらかじめ用意しておき、一部のパラメータを sed で置き換えて入力ファイルを作成するという手順を踏みます。
以下にgo計算のための入力ファイルのテンプレートとそれを置換するためのCシェルのシェルスクリプトを示します。

c----------------------MnSb----------------------------------
go data/AATOMBATOMALATT
c------------------------------------------------------------
c brvtyp a c/a b/a alpha beta gamma
fcc ABOHR , , , , , ,
c------------------------------------------------------------
c edelt ewidth reltyp sdftyp magtyp record
0.001 1.0 sra mjw mag 2nd
c------------------------------------------------------------
c outtyp bzqlty maxitr pmix
update 4 200 0.03
c------------------------------------------------------------
c ntyp
4
c------------------------------------------------------------
c type ncmp rmt field mxl anclr conc
AATOM 1 1 0.0 2 AANUM 100
BATOM 1 1 0.0 2 BANUM 100
Vc1 1 1 0.0 0 0 100
Vc2 1 1 0.0 0 0 100
c------------------------------------------------------------
c natm
4
c------------------------------------------------------------
c atmicx atmtyp
0 0 0 AATOM
0.25 0.25 0.25 BATOM
0.5 0.5 0.5 Vc1
0.75 0.75 0.75 Vc2
c------------------------------------------------------------


#!/bin/csh -f

## *** プロジェクト名 ***
set PROJECT="HalfMetal"
## ポテンシャルファイル名
set POTENTIAL=${PROJECT}

## *** 格子定数のリスト (Angstrom) ***
set ALATT_LIST=( 4.98 5.45 5.65 5.87 6.06 6.10 6.48 )
set AATOM_LIST=( Cr Mn )
set AANUM_LIST=( 24 25 )
set BATOM_LIST=( P As Sb )
set BANUM_LIST=( 15 33 51 )

## *** 第一原理計算 ****
set i=0
foreach AATOM ( ${AATOM_LIST} )
set i=`echo "${i}+1" | bc -l`
set AANUM=${AANUM_LIST[$i]}
set j=0
foreach BATOM ( ${BATOM_LIST} )
set j=`echo "${j}+1" | bc -l`
set BANUM=${BANUM_LIST[$j]}
foreach ALATT ( ${ALATT_LIST} )
set ABOHR=`echo "scale=5; ${ALATT}/0.52917721092" | bc -l`
## 強磁性用入力ファイルの作成
sed 's/'ABOHR'/'${ABOHR}'/g' template/${PROJECT}.in | sed 's/'ALATT'/'${ALATT}'/g' | sed 's/'AATOM'/'${AATOM}'/g' | sed 's/'AANUM'/'${AANUM}'/g' | sed 's/'BATOM'/'${BATOM}'/g' | sed 's/'BANUM'/'${BANUM}'/g' > in/${AATOM}${BATOM}${ALATT}.in
## LMD用入力ファイルの作成
sed 's/'ABOHR'/'${ABOHR}'/g' template/${PROJECT}-lmd.in | sed 's/'ALATT'/'${ALATT}'/g' | sed 's/'AATOM'/'${AATOM}'/g' | sed 's/'AANUM'/'${AANUM}'/g' | sed 's/'BATOM'/'${BATOM}'/g' | sed 's/'BANUM'/'${BANUM}'/g' > in/${AATOM}${BATOM}${ALATT}-lmd.in
## 強磁性状態の計算
specx out/${AATOM}${BATOM}${ALATT}.out
## LMD初期ポテンシャルの作成
cp data/${AATOM}${BATOM}${ALATT} data/HalfMetal
fmg < HalfMetal.fmg
cp data/HalfMetal_lmd data/${AATOM}${BATOM}lmd${ALATT}
## LMD状態の計算
specx out/${AATOM}${BATOM}${ALATT}-lmd.out
end
end
end


5.87ÅのCrAsの計算結果


すべてのデータを眺めながら系統的な議論を行うのが本筋なのですが、今回は格子定数 a=5.87 Å のCrAsについてのみ結果を見てみます。
Fig.1は計算された状態密度で確かに半金属になっています。磁気モーメントの計算値は 2.99028 μB で、これもほとんど整数値の3とみなすことができます。

次にキュリー温度を求めます。強磁性状態と局所モーメント不規則状態の全エネルギーはそれぞれ
EFMG=-6613.3040012 (Ry)
ELMD=-6613.2841922 (Ry)
となりました。

ボルツマン定数は kB = 6.3336*10-6 (Ry/K) なので
\begin{equation}
T_C = \frac{2}{3}\frac{E_{FMG}-E_{LMD}}{k_B}=2085 (\mathrm{K})
\end{equation}
となり、キュリー温度は非常に高いことが予想されました。

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


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tag: AkaiKKR machikaneyama KKR ハーフメタル 強磁性 キュリー温度 状態密度 

ecaljで半金属α-スズ

ダイヤモンド構造を持つα-スズ(灰色スズ)は、バンドギャップがほとんどない半金属であることが知られています。今回は、ecaljを用いてα-スズの計算し、LDA計算でもGW近似計算でも半金属的なバンド構造を持つことを確認しました。

aSnLDAdos.png

Fig.1: ダイヤモンド構造スズ(α-スズ, 灰色スズ)の状態密度の計算結果。



ダイヤモンド構造のα-スズ


私たちがスズと聞いて、日常的に思い浮かべるのは、β-スズと呼ばれる正方晶の結晶で、金属です。ここで周期表を眺めてみると、スズは14族に属する元素です。14族元素を上から順に見てみると、炭素・シリコン・ゲルマニウムといずれもダイヤモンド構造をとる半導体です(炭素の最安定構造はグラファイトですが)。スズもまた、13℃以下の温度では、ダイヤモンド構造をとり、α-スズ(灰色スズ)と呼ばれ、通常のβ-スズ(白色スズ)と区別されます。

Sn-Alpha-Beta-small.jpg

Fig.2: 左は金属のβ-スズ(白色スズ)で右はダイヤモンド構造のα-スズ(灰色スズ)。Wikipediaのスズのページより


今回はecaljを利用してダイヤモンド構造のα-スズのバンド構造を計算します。
なおWikipediaのスズのページにはバンドギャップが約0.1 eVの半導体[要出典]と書かれています。

計算手順


ecaljのMATERIALSディレクトリで ./job_materials.pySn--noexec オプションをつけて実行すると関連するファイル群が作成されます。
./job_materials.py Sn --noexec

その中から結晶構造ファイル ctrls.sn だけコピーして、後はいつもどおり計算します。

計算結果


LDA計算とワンショットのQSGW計算を行いました。

aSnLDA.png
aSnQSGW.png

Fig.3-4: ダイヤモンド構造のスズ(α-スズ, 灰色スズ)のバンド構造の計算結果(LDAとQSGW)


LDAもGW近似も状態密度を見るとフェルミ準位に状態の谷がありますが、金属なのか半導体なのかの判断は微妙です。バンド図を見るとLDAの方はわずかながらフェルミ準位でバンドの重なりがあります。GW近似の結果は、微妙です。

ecaljでAg2Oの状態密度のときは、LDA計算ではバンドギャップがまったくなかったものが、QSGW計算にするとギャップが開くという結果が得られました。これに対して今回のα-スズの計算ではQSGW計算でもほとんど(あるいはまったく)バンドギャップが見られませんでした。このことは現実のα-スズでもバンドギャップがほとんど(あるいはまったく)ない半金属的な電子構造を持つということと調和的です。

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ecaljで仮想結晶近似

ecaljの仮想結晶近似(VCA)の機能を用いてbcc Fe1-xCoxの状態密度を計算しました。
その結果、AkaiKKRでFeCoの磁気モーメントと格子定数で計算したコヒーレントポテンシャル近似(CPA)の結果と似たような挙動が確認できました。

FeCo.gif

Fig.1: 仮想結晶近似(VCA)によるbcc Fe1-xCoxの状態密度



合金の電子状態


固体物理の多くの第一原理計算パッケージでは、結晶の周期性を利用しているため不規則構造の計算が苦手です。AkaiKKR(machikaneyama)は、コヒーレントポテンシャル近似(CPA)を用いて不規則性を扱います。合金を扱うほかの方法としては、スーパーセル法(参考: AkaiKKRでスーパーセル その1)などがあります。これ以外にもCPAよりももう一歩手前の近似法として仮想結晶近似(VCA: Virtual Crystal Approximation)というものが存在します。

ecaljのマニュアルを読むと、どうやらVCAが使えるようなので、今回は体心立方構造(bcc)のFe1-xCoxの状態密度を計算してみました。

計算手順


ecaljのマニュアルのP15にはYou can use Z=37.5 for virtual crystal approximation, however, you can not do it in ctrls now. Edit it in ctrl file.のように書いてあります。そこで通常通りbcc鉄の結晶構造ファイルを作り ctrlgenM1.py--nspin=2 のオプションを与えて制御ファイルを作成します(参考: ecaljで強磁性鉄のスピン分極計算)。

この後、作成した制御ファイルの原子番号Zを編集します。例えばFe0.8Co0.2なら、原子番号が26の鉄と27のコバルトの合金なので 26*0.8 + 27*0.2 = 26.2ということだと思います。(しかしこれだとFe0.9Ni0.1でも同じ結果になってしまう?私が何か勘違いしている?)

結果


以下に計算結果の純鉄とFe0.8Co0.2の状態密度を示します。

FeCo0.png
FeCo20.png

Fig.2-3: bcc Feとbcc Fe0.8Co0.2の状態密度


コバルト濃度を増していくと、アップスピンの状態密度が低エネルギー側へ移動していくような挙動が見られました。これはAkaiKKRでFeCoの磁気モーメントと格子定数で計算した結果と似たような挙動であることが分かります。

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tag: ecalj 強磁性 仮想結晶近似 VCA 

二元合金/鉄合金状態図集

AkaiKKR(machikaneyama)は不規則合金のDFT計算を得意としています。ところで世の中には、どのような合金が存在しているのでしょうか?
このような情報が一目で分かるのが、金属の状態図です。興味のある物質の状態図はGoogle画像検索などで見つかることもありますが、やはりちゃんとした文献で見ておきたいと思います。



そこで心強いのが、状態図が一覧になっている状態図集です。アグネ技術センターから二元合金状態図集鉄合金状態図集―二元系から七元系までが出版されています。

二元合金状態図集は5,600円+税で鉄合金状態図集―二元系から七元系までに至っては7,000円+税という結構なお値段ですが、とうとう購入してしまいました。

特に二元合金状態図集はAkaiKKRを使うなら持っていると便利だと思います。規則相、不規則相と共に結晶構造も書いてあり、磁性体の場合は、磁気変態温度(キュリー温度など)も載っています。

なお、二元合金状態図集の後ろのほうには、簡単な状態図の読み方の解説も載っていますが、私としては見方・考え方 合金状態図が読みやすかったので、あわせて宣伝しておきます。

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