AkaiKKRでコバルトの結晶磁気異方性

AkaiKKRでは、結晶格子の指定に基本ベクトルを利用することができます。このようにしておくと、結晶格子を簡単に回転させたり歪ませたりする事ができます。
今回は、結晶を回転させる例として六方最密充填構造(hcp)のコバルトの結晶磁気異方性を調べます。AkaiKKRでは、スピン軌道相互作用を含む相対論計算(srals)を行うと、磁化の向きをz軸方向にとるようです。そこで結晶(と同時に磁化の向き)を回転させたときに全エネルギーがどのように変化するかから磁化容易軸を探しました。


SRALS.png
Fig.1: 全エネルギーとx軸周りの回転角度の関係。θ=0度でc軸とz軸が平行となり、θ=90度で直行する。


結果は、磁化の向きがc軸方向と平衡になったときに全エネルギーが最小となりました。この事はコバルトの磁化容易軸がc軸であるという実験事実と調和的となりました。この方法が結晶磁気異方性を調べるために妥当な方法なのかは良く分かりませんが、少なくとも結晶を回転させることはできました。


結晶の基本ベクトルと回転


AkaiKKR(machikaneyama)では結晶構造の指定にブラベ格子と基本構造の組み合わせを利用します。ブラベ格子の指定方法には、キーワードを使う方法(AkaiKKRのブラベ格子)と基本ベクトルを直接指定する方法(AkaiKKRの基本並進ベクトル その1その2)があります。

基本ベクトルは、その名前のとおりベクトルです。AkaiKKRは基本ベクトルの成分を直交座標系で表現します。
AkaiKKRの基本並進ベクトル その2では、六方最密充填構造(hcp)コバルトを、直交座標系におけるz軸を中心に反時計回りに30度回転させた場合のファイルを作成しました。

より一般的に、ベクトルは回転行列をかけることによって任意の角度に回転させることができます。
例えばベクトルa0=(ax0, ay0, az0)をx軸の周りにθだけ回転させるときの回転行列は以下のようになります。

matrix001.png

これを縦ベクトルで成分表示したa0ベクトルにかけると

\begin{equation*}\begin{pmatrix}a_x \\a_y \\a_z\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1 & 0 & 0 \\0 & \cos\theta & -\sin\theta \\0  \sin\theta & \cos\theta\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a_{x0} \\a_{y0} \\a_{z0}\end{pmatrix}\end{equation*}

同様にb0ベクトルc0ベクトルも回転させると、各成分は以下のようになります。

ax = ax0
ay = ay0cosθ - az0sinθ
az = ay0sinθ + az0cosθ

bx = bx0
by = by0cosθ - bz0sinθ
bz = by0sinθ + bz0cosθ

cx = cx0
cy = cy0cosθ - cz0sinθ
cz = cy0sinθ + cz0cosθ

コバルトの結晶磁気異方性


強磁性体の自発磁化の方向は、結晶の特定の方向に向きやすい性質があります。磁化が向きやすい方向を磁化容易軸、向きにくい方向を磁化困難軸とよびます。hcp構造の強磁性金属であるコバルトは、結晶のc軸方向に磁化容易軸を持っていることが知られています。

AkaiKKRでは相対論の効果を取り入れるのに、スピン軌道相互作用を含まないスカラー相対論計算(sra)とスピン軌道相互作用まで含むフルの相対論(srals)の両方が可能です(AkaiKKRで鉛の相対論計算)。結晶磁気異方性の主たる起源としてはスピン軌道相互作用が挙げられるということですが(磁気異方性(Wikipedia))、AkaiKKRでスピン軌道相互作用の計算をすると、スピン量子化軸は、直交座標系のz軸方向にとられるようです。

そこでスピン軌道相互作用を含む相対論の計算を、hcpコバルトのc軸の方向を変えながら行うことで、全エネルギー最小の条件から磁化容易軸の方向が決まるのではないかと考えました。(ただしこの考え方が正しいのかは良く分かりません。)

計算手法


基本ベクトルをx軸の周りに0度から90度まで10度ごとに回転させた入力ファイルをスカラー相対論(sra)とスピン軌道相互作用まで含めた相対論(srals)の両方で計算しました。

以下に示すのが、入力ファイルのテンプレートです。

c----------------------Co------------------------------------
go data/rotCo_SRALS_DEGREE
c------------------------------------------------------------
c brvtyp
aux
AX AY AZ
BX BY BZ
CX CY CZ
4.74
c------------------------------------------------------------
c edelt ewidth reltyp sdftyp magtyp record
0.001 1.4 srals gga91 mag 2nd
c------------------------------------------------------------
c outtyp bzqlty maxitr pmix
update 8 200 0.023
c------------------------------------------------------------
c ntyp
1
c------------------------------------------------------------
c type ncmp rmt field mxl anclr conc
Co 1 1 0.0 2
27 100
c------------------------------------------------------------
c natm
2
c------------------------------------------------------------
c atmicx atmtyp
0a 0b 0c Co
1/3a 2/3b 1/2c Co
c------------------------------------------------------------


上記入力ファイルのテンプレートから、c軸の向きを変化させた入力ファイルを作成しセルフコンシステント計算を実行するシェルスクリプトがrotation_sh.txtです。

結果と議論


予想通りスカラー相対論の計算に関しては、回転をさせても全エネルギーに変化は見られませんでした。一方でスピン軌道相互作用を考慮に入れたフル相対論の結果は冒頭のFig.1に示したような角度依存性が見られました。θ=0度で全エネルギーが最小となり、これは結晶のc軸と直交座標系のz軸が平行になるときに対応します。すなわち、c軸方向に磁化の向きをとったという意味です。逆にθ=90度のときに全エネルギーが最大になり、これは磁化の向きがab面方向にあるときです。
実験的に知られている磁化容易軸はc軸方向なので、計算結果は実験事実と調和的であるといえます。

ただし、今回はコバルトだけに触れますが、体心立方構造(bcc)の鉄や面心立法構造(fcc)のニッケルについて同様の計算を行うと、結果は微妙な感じです。なので、この方法が結晶磁気異方性を調べるために妥当な方法なのかは確信が持てません。

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したLTspiceのシミュレーション用ファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


参考文献/使用機器




フィードバック



にほんブログ村 その他趣味ブログ 電子工作へ

 ↑ 電子工作ブログランキング参加中です。1クリックお願いします。


コメント・トラックバックも歓迎です。 ↓      


 ↓ この記事が面白かった方は「拍手」をお願いします。

tag: AkaiKKR machikaneyama KKR 強磁性 コバルト 結晶磁気異方性 基本並進ベクトル 相対論 スピン軌道相互作用 六方最密充填構造 

Scilabで自発磁化の温度依存性

磁性入門―スピンから磁石まで (材料学シリーズ)では、ワイスの分子場近似を用いた磁化の温度依存性を解析的に表す式が以下のように書かれています。

_eq_htcs.png

今回は、これをScilabの非線型方程式ソルバfsolveを用いて数値的に解きます。(参考:Scilabで非線形方程式ソルバ その1)

001_2015081913143435a.png
Fig.1: 遷移金属の磁気モーメントの温度依存性



自発磁化の温度依存性


磁性入門―スピンから磁石まで (材料学シリーズ)によると、スピン角運動量 S=1/2 の場合、自発磁化 M(T) は

M(T) = N \mu_B \tanh \left( \frac{\alpha \mu_B M(T)}{k_B T} \right)

ここで T=0 (K) のときの磁化 M0=M(0) は

M_0 = N \mu_B

であり、キュリー温度TC

T_C = \frac{\alpha N \mu_B^2}{k_B}

したがって

\frac{M(T)}{M_0} = \tanh \left(\frac{M(T)}{M_0} \frac{T_C}{T} \right)

となるのでScilabなどの非線型方程式ソルバ(fsolve)で解く事が可能です。
したがって基底状態の自発磁化M0とキュリー温度TCの二つのパラメータから磁化温度曲線を内挿することができます。

数値計算


実際にScilabを使って計算した結果が冒頭のFig.1です。
赤、緑、青の点はCrangle and Goodman (1971)により報告されている、鉄・ニッケル・コバルトの実験値です。
大雑把な仮定と簡単な式から計算したことを考えると、そんなに悪くない結果ではないかと思います。

なお、M0とTCはどちらもAkaiKKR(machikaneyam)を用いて計算できます。しかしながら、計算されるキュリー温度はかなりの過大評価です。例えば、体心立方構造(bcc)鉄の場合は、TC=1043 Kの実験値に対して、AkaiKKRの計算では TC=1616 Kと約55%も過大評価となります。(AkaiKKRで鉄のキュリー温度の計算のときはTC=1229 Kでしたがbzqltyを上げてpbeで計算するとTC=1616 Kとなりました。いずれにせよ過大評価です。)

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したScilabスクリプトを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


参考文献/使用機器




フィードバック



にほんブログ村 その他趣味ブログ 電子工作へ

 ↑ 電子工作ブログランキング参加中です。1クリックお願いします。


コメント・トラックバックも歓迎です。 ↓      


 ↓ この記事が面白かった方は「拍手」をお願いします。

tag: Scilab 非線型方程式ソルバ 強磁性 キュリー温度 平均場近似 

コメントでの質問について

ねがてぃぶろぐは、電子工作趣味人であるgomisaiの個人的な備忘録を公開しているブログです。その内容はLTspiceやScilab、AkaiKKRなどの技術的なメモを含みます。

個人的な備忘録ではありますが、読者の方の疑問点に関してコメント欄で質問を受けた場合、可能な限り回答したいと考えています。ねがてぃぶろぐは、そんなに頻繁にコメントが書き込まれるブログでもないので、これまでは個別に対処していましたが、ガイドラインのようなものがあった方が親切かもしれないと思い、差し当たり、以下の項目を設定することにしました。
  • 非公開での質問の禁止
  • マルチポストの禁止
  • 記事と関係ない質問は非推奨
  • 結果報告の推奨


基本的な考え方


ねがてぃぶろぐは、電子工作趣味人であるgomisaiが個人的な備忘録を残すために公開しているブログです。

上記の文の中で重要な点は二点あります。一つ目は、私はプロのエンジニアでもなければコンサルタントでもない、ただのアマチュアの電子工作趣味人であるということ。二つ目は、個人的な備忘録が目的で公開しているという点です。

非公開での質問の禁止


コメントを送信する際に「管理者にだけメッセージを送る」にチェックを入れると、コメントを非公開にしてネット上のほかの閲覧者から見えないようにすることができます。しかしながら、質問を含めて、返事を期待する場合は、この機能を使わず公開設定でコメントをしてください。(非公開コメントの例)

誰かが分かりにくいと感じた点は、おそらくほかの誰かにとっても分かりにくい点であると思います。もしもウエブ上で公開されないようなやり取りの方法、例えばメールでのやり取りをしてしまうと、その内容は他の読者の方には読めない事になってしまいます。
非公開の書き込み内容を勝手に公開するわけには行きませんし、書き込み内容に触れずにお返事をすることは難しいです。

なお、どうしても非公開で質問をせざるを得ない状況になった場合は、この記事の内容を読んで理解した事、非公開で説明せざるを得なくなった理由、連絡用のメールアドレスを明記した上で非公開コメントを投稿してください。

マルチポストの禁止


マルチポスト、すなわち同じ質問を私のブログと、それ以外の場所(他の方のブログ、質問系サイト、2ちゃんねるなどの掲示板、TwitterやfacebookなどのSNS)で同時に行う事を禁止します。(マルチポストの例その1その2)

なお、どうしてもマルチポストをせざるを得ない状況になった場合は、この記事の内容を読んで理解した事、マルチポストをせざるを得なくなった理由、他に質問を投稿したすべての場所のURLを明記した上でコメントを投稿してください。

記事と関係ない質問は非推奨


記事と関係ない質問は、基本的には避けてください。
とは言うものの、どこまでが記事に関係ある質問で、どこからが記事に関係がない質問なのかは微妙な事も良くあります。そういうときには、あまり気にせず質問していただいてかまいません。ただし、ねがてぃぶろぐではマルチポストを禁止している事は理解して置いてください。また、質問していただいても私に回答ができるかは別問題です。
そんなわけで、微妙な質問ははじめから質問系サイト(Yahoo!知恵袋、OKWave、教えて!gooなど)で聞くほうが良いかもしれません。

結果報告の推奨


問題が解決したら、あるいは解決しない事がはっきりとしたら、結局どうなったのかを後から報告してもらえるとありがたいです。結果報告は3日後でも、一ヵ月後でも、10年後でも(そのときまでこのブログが存在しているかは不明ですが)かまいません。

フィードバック



にほんブログ村 その他趣味ブログ 電子工作へ

 ↑ 電子工作ブログランキング参加中です。1クリックお願いします。


コメント・トラックバックも歓迎です。 ↓      


 ↓ この記事が面白かった方は「拍手」をお願いします。

ソリティアで一枚も動かせない件について

Windowsに付属のソリティアで山札をめくる以外に何もできずにゲームオーバーになる手にあたりました。そんなことあるんですね。次回はがんばってください、などと申されましても・・・理不尽すぎる。

以下は、証拠のスナップショットです。

001_20150808103305763.png
002_20150808103303daf.png
003_2015080810325222b.png
004_2015080810324298e.png
005_20150808103241bda.png
006_201508081032396f2.png
007_2015080810341043f.png
008_201508081034094d9.png
009_201508081034037ad.png

フィードバック



にほんブログ村 その他趣味ブログ 電子工作へ

 ↑ 電子工作ブログランキング参加中です。1クリックお願いします。


コメント・トラックバックも歓迎です。 ↓      


 ↓ この記事が面白かった方は「拍手」をお願いします。
FC2カウンター
カテゴリ
ユーザータグ

LTspiceAkaiKKRmachikaneyamaScilabKKRPSoCOPアンプCPA強磁性PICモンテカルロ解析常微分方程式odeトランジスタecalj状態密度DOSインターフェース定電流スイッチング回路PDS5022半導体シェルスクリプト乱数レベルシフトHP6632A温度解析分散関係I2Cトランジスタ技術R6452A可変抵抗ブレッドボードセミナーバンドギャップ数値積分確率論反強磁性偏微分方程式バンド構造絶縁熱設計非線形方程式ソルバフォトカプラシュミットトリガLEDLM358カオスISO-I2C三端子レギュレータGW近似A/Dコンバータカレントミラーアナログスイッチ数値微分マフィンティン半径TL431発振回路サーボPC817CUSB直流動作点解析74HC4053補間FFTBSch開発環境パラメトリック解析2ちゃんねるチョッパアンプ量子力学bzqlty電子負荷イジング模型LDA標準ロジックアセンブラ基本並進ベクトルブラべ格子単振り子熱伝導位相図TLP621キュリー温度繰り返し状態方程式MaximaVESTAスイッチト・キャパシタ相対論FETランダムウォークスピン軌道相互作用SMP六方最密充填構造抵抗不規則合金ewidthスレーターポーリング曲線GGAラプラス方程式cygwingfortranQSGW失敗談コバルト条件分岐TLP521テスタLM555Writer509TLP552格子比熱マントルデータロガー自動計測詰め回路ガイガー管ダイヤモンドQNAPMCUFXA-7020ZR過渡解析三角波UPSNE555固有値問題熱力学ブラウン運動フェルミ面awk起電力第一原理計算OpenMPfsolveubuntu最大値xcrysden最小値最適化仮想結晶近似VCA差し込みグラフスーパーセル井戸型ポテンシャル平均場近似シュレディンガー方程式FSMフラクタルOPA2277固定スピンモーメント2SC1815全エネルギー合金multiplotgnuplotc/aTeX結晶磁気異方性interp1ウィグナーザイツ胞初期値マンデルブロ集合疎行列面心立方構造fcc不純物問題非線型方程式ソルバフィルタL10構造PGA半金属二相共存SICZnOウルツ鉱構造BaO重積分クーロン散乱磁気モーメント電荷密度三次元CIF岩塩構造CapSenseノコギリ波デバイ模型ハーフメタル正規分布フォノンquantumESPRESSOルチル構造スワップ領域リジッドバンド模型edelt縮退キーボード軸ラベルグラフの分割凡例トラックボールPC不規則局所モーメント片対数グラフトランス両対数グラフCK1026MAS830L直流解析Excel円周率パラメータ・モデルヒストグラム日本語最小二乗法等価回路モデルGimp線種シンボルTS-110TS-112PIC16F785LMC662化学反応文字列specx.f入出力ifortマテリアルデザインヒストグラム確率論Realforce等高線ジバニャン方程式P-10Ubuntuナイキスト線図Crank-Nicolson法陰解法熱拡散方程式HiLAPWAACircuit連立一次方程式負帰還安定性境界条件EAGLEMBE関数フィッティング

最新コメント
リンク

にほんブログ村 その他趣味ブログ 電子工作へ