AkaiKKRで鉛の相対論計算

第一原理計算パッケージには多くの場合、相対論の効果を取り入れるか否かのオプションがあります。
AkaiKKR(machikaneyama)では、非相対論計算、スカラー相対論計算、スピン軌道相互作用を考慮した計算をすべてサポートしています。今回は比較的重い元素である鉛のバンド構造に関して、上記のオプションを変えながら計算してみました。

その結果、相対論の効果を取り入れるとバンドの分裂が起きることを確認しました。
また、非相対論計算とスカラー相対論計算の計算時間はほとんど変わない一方で、スピン軌道相互作用を含めた計算を行うと、4倍以上もの計算時間が必要となりした。


スカラー相対論とスピン軌道相互作用


第一原理計算パッケージの多くは、相対性理論の効果を考慮した計算と考慮しない計算を選んで実行させることができる機能を持ちます。
相対論の効果を入れた計算には、スピン軌道相互作用まで考慮した計算と、スピン軌道相互作用を考慮しないスカラー相対論と呼ばれるものとがあります(参考: 相対論的第一原理計算の手法開発)。
スピン軌道相互作用の計算は難しいので、サポートしない第一原理計算パッケージもありますが、AkaiKKR(machikaneyama)では、スカラー相対論とスピン軌道相互作用まで考慮した計算の両方をサポートしています。具体的には入力ファイルのreltypをnrl(非相対論)、sra(スカラー相対論)、srals(スピン軌道相互作用を含む相対論)に指定することでそれぞれの計算を行うことができます。

当然ながら近似の度合いが少ないのはsrals, sra, nrlの順番なので、正しい結果を得ることだけが目的なら常にsralsを指定すればよいことになります。しかしながら、後述する通り、スピン軌道相互作用の計算はスカラー相対論や非相対論とくらべて大幅に時間がかかるので、スピン軌道相互作用が重要ではなさそうな系では、スカラー相対論の範囲で収めたいところです。
実際、今回の鉛の例ではスピン軌道相互作用の計算は、スカラー相対論や非相対論の計算と比較して4倍以上の時間がかかりました。なお、スカラー相対論と非相対論の計算時間はほとんど変わらない模様です(参考: 第一原理バンド計算(基礎編))。

相対論の効果は、多くの場合、原子番号の大きい重い元素を含む場合において重要になるとされています。しかしながら、スピン軌道相互作用に関しては必ずしもそういったわけでもなく、軽い元素であっても重要になることがあるようです(連載:”徹底解剖 第一原理計算”の支援ページ(試作版))。

鉛のバンド構造


スピン軌道相互作用を考慮したバンド計算の例題として、Osaka2002 nanoのテクニカルノートにNo. 101 「スピンー軌道相互作用をいれたバンド計算」(PDF)があります。今回のエントリでは、この中で取り上げられている物質の中から面心立方構造(fcc)の鉛(Pb, 原子番号82)のバンド構造の計算を行います。格子定数は 4.9502Å ≒ 9.355 Bohr とし、入力ファイルはとなりました。ただしフェルミ準位よりも上のエネルギー範囲を広めにプロットしたかったので source/cemesr.f の data ref/0.75d0/ を data/ ref/0.5d/ に変更してコンパイルしました(参考: DOS and band structure over the Fermi level (in japanese))。

結果


以下に非相対論、スカラー相対論、スピン軌道相互作用まで含む相対論の計算結果を順番に示します。相対論の効果を入れることによって定性的にバンドが分裂していくと連でであることが読み取れます。

PbNRL.png

Fig.1: 非相対論計算


PbSRA.png

Fig.2: スカラー相対論計算


PbSRALS.png

Fig.3: スピン軌道相互作用を含む相対論計算


計算時間


私の環境ではCPUの処理時間は以下のようになりました。

相対論効果計算時間(秒)
非相対論(nrl)38.03
スカラー相対論(sra)37.52
スピン軌道相互作用(srals)169.98
table.1: 相対論効果の扱いと計算時間


結果を見ての通りスピン軌道相互作用まで含めた相対論計算には、スカラー相対論の計算と比較してはるかに時間がかかります。

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したAkaiKKRの入力ファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


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tag: AkaiKKR machikaneyama KKR 相対論 スピン軌道相互作用 

Scilabで非線形方程式ソルバ その3

Scilabで非線形方程式ソルバ その1その2では関数の解を非線形方程式ソルバで計算しました。
今回は、離散データに対しても似たような解を求めるために、関数の補完と組み合わせるという事を行いました。

001_201502150526487fb.png
Fig.1: 離散データに対する補完と非線形方程式ソルバ



離散データのfsolve


Scilabで非線形方程式ソルバ その1その2では関数 f(x) がゼロとなる x を探す方法を書きました。今回は f(x) が具体的な関数の形ではなく、離散データとして与えられている場合について書きます。

と言ってもやっていることは簡単で、離散データを内挿(補間)してから解を求めるだけです。

今回はScilabで非線形方程式ソルバ その1との比較のために対数関数を例にしますが、実際の離散データは実験データであったり、複雑な数値計算(例えば第一原理計算や回路シミュレーション)の結果得られる数値列を想定します。

離散データの補完にはScilabでデータの補間で紹介したinterp1を利用します。
interp1の補間方法のデフォルトは線形補完(linear)のようです。今回のエントリでは最近接(nearest)は使えません。

スクリプト


スクリプトはlogsolve2_sce.txtとなりました。

今回は、離散データ自体もスクリプト内部で用意しましたが、実験データや、ほかの数値データを読み込む場合にはExcelデータを Scilabで読みこむScilabで大容量のCSV(テキスト)ファイルを読み込む,Scilabで大容量のCSV(テキスト)ファイルを読み込む2などを参照してください。

clear;

// *** データの作成 ***
X = linspace(0.1,10,15);
Y = log(X);

// *** 解くべき関数の定義 ***
function y = func(x)
// y = log(x) - yp;
// y = interp1(X, Y, x, "spline") - yp; // スプライン補完
y = interp1(X, Y, x, "linear") - yp; // 線形補完
endfunction

// *** 非線形方程式ソルバ ***
yp = 1; // yp = f(x)
x0 = 1; // ソルバ―の初期値
// 非線形方程式を解く
xp = fsolve(x0, func)
// 誤差
err = abs(xp - exp(yp))

// *** グラフのプロット ***
plot(X, Y, '.-b');
plot(X, yp * ones(Y), '--k');
plot(xp, yp, 'or');


結果


所詮、離散的な数値データから間の値を予測するだけなので、Scilabで非線形方程式ソルバ その1と比較すると結果に誤差が出ます。

線形補完を行った時の近似解と、真の値からの誤差は以下のようになりました。
 xp  =    2.737908
err = 0.0196261


スプライン補完を行った場合は、以下の通りです。
 xp  =    2.7130249
err = 0.0052569


今回の例ではスプライン補完の方が良い結果が得られているようです。

関連エントリ




参考URL




付録


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tag: Scilab 非線形方程式ソルバ 補間 fsolve interp1 

Scilabで非線形方程式ソルバ その2

Scilabで非線形方程式ソルバ その1では、(解析的に解を得ることも可能な)非常に簡単な関数についてソルバ―を用いて解を求めました。

しかし前回の関数は、得られる解が一つだけでした。
では、解が二つ以上得られる場合、例えば二次関数の解を求める場合はどうなるのでしょうか?

002_20150212083236a8a.png

Fig.1: y = x2 と y = 1 の交点のx座標を計算した結果(上)。非線形方程式ソルバに与えた初期値x0とその結果として得られる解の関係(下)。


結論から言うと、非線形方程式ソルバでは解が一つしか得られず、その値はパラメータとして与える初期値に依存します。得られる解は、与えた初期値に近い値となりますが、必ずしも最も近い値になるというわけではないようなので、初期値の選び方は慎重に行う必要があります。


初期値の重要性


Scilabで非線形方程式ソルバ その1では、単純な対数関数の解を非線形方程式ソルバ―を用いて計算し、解析解と一致することを確認しました。

今回は x2 - 1 = 0 の解が、初期値 x0 の値によってどのように変化するかを確認します。

今回の記事で着目する二次関数と対数関数の違いは、得られる解が一つであるか二つであるかという事です。
Scilabの非線形方程式ソルバーは、数値的に解の近似値を計算するため、実際には複数の解が存在する場合であっても解が一つしか出てきません。
多くの場合、物理的に意味のある解は一つだけだったりするのですが、上手く重要な解を得るためには、初期値をどのように設定するかが重要になります。

x2 - 1 = 0 の解は当然ながら x=1 と x=-1 の二つなのですが、ソルバ―に与える初期値に応じてどちらの解が得られるかを確認するのが今回のエントリの趣旨です。

なお、多項式のすべての解をすべて一気に計算するための命令もScilabには用意されています。(参考: roots)

スクリプト


今回計算するSciabスクリプトはparabolicsolve_sce.txtです。

clear;

// *** データの作成 ***
X = linspace(-2,2);
Y = X .^ 2;

// *** 解くべき関数の定義 ***
function y = func(x)
y = x .^ 2 - yp;
endfunction

// *** 非線形方程式ソルバ ***
yp = 1; // yp = f(x)
x0 = 2; // ソルバ―の初期値
// 非線形方程式を解く
xp = fsolve(x0, func)

// *** 非線形方程式の初期値依存性 ***
X0 = X;
XP = fsolve(X0, func);

// *** グラフのプロット ***
subplot(2,1,1);
plot(X, Y, '-b');
plot(X, yp * ones(Y), '--k');
plot(xp, yp, 'or');
xlabel("x")
ylabel("y")

subplot(2,1,2);
plot(X0, XP, '-or')
xlabel("x0")
ylabel("xp")


結果


結果は、冒頭に紹介したFig.1です。
注目すべきは下のパネルの x0 = 0 近傍の挙動です。
必ずしも最も近い解が得られるわけではなく、初期値の微妙な変化で得られる解が振動していることがわかります。

なお、とにかくたくさん解がありそうな場合は、グラフを描いてみるのが良いです。Scilabでジバニャン方程式は f(x,y) = 0 となる x と y の組み合わせをすべてプロットしたものです。

関連エントリ




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tag: Scilab 非線形方程式ソルバ fsolve 初期値 

Scilabで非線形方程式ソルバ その1

Scilabの非線形方程式ソルバfsolveは任意の関数 f(x) に対して f(x) = 0 となるxを探すことができます。

これまで比較的複雑なプログラムでfsolveを使っていたので、簡単な例について書いておきます。

001_20150205220744dcb.png

Fig.1: y = ln(x) と y = 1 の交点のx座標を計算した結果



簡単な例題


これまで既に非線形方程式ソルバを利用してきました。
しかしこれらは、比較的複雑な使用例だったので、今回は簡単な例について説明します。

非線形方程式ソルバ―fsolveを用いれば y=f(x) の形で表されている関数を解くことができます。
方程式を解くとは y=0 となるxを探すという事です。fsolveはyがベクトルであっても y がゼロベクトルとなるxの組を計算してくれます(例: Scilabでおもりの吊り下げ)。しかし、今回は簡単な例ということでx, yはスカラーとします。
なお任意の定数 y = yp となるときの x = xp を探すには 0 = f(xp) - yp を解けばよいことになります。

今回は具体的な関数の形として f(x) = ln(x) を考え、yp=1 となる x = xp を求めることから始めます。
もちろんこれは、数値計算を行うまでもなく高校数学の知識を用いれば xp = exp(1) = 2.71828... という解がすでに分かっているわけですが、同じ方法を用いればもっと複雑で、簡単には解がわからない関数も数値的に解を得ることができます。

プログラミング


このScilabスクリプトはlogsolve_sce.txtのようになりました。

clear;

// *** データの作成 ***
X = linspace(0.1,10);
Y = log(X);

// *** 解くべき関数の定義 ***
function y = func(x)
y = log(x) - yp;
endfunction

// *** 非線形方程式ソルバ ***
yp = 1; // yp = f(x)
x0 = 1; // ソルバ―の初期値
// 非線形方程式を解く
xp = fsolve(x0, func)
// 誤差
err = abs(xp - exp(yp))

// *** グラフのプロット ***
plot(X, Y, '-b');
plot(X, yp * ones(Y), '--k');
plot(xp, yp, 'or');



関連エントリ




付録


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