Scilabで二重積分

Scilabを利用すると1変数の数値積分が簡単に計算できます。

\begin{equation}
\int_{x_0}^{x_1}f(x)\mathrm{d}x
\end{equation}

このブログでも数値積分タグにいくつかの例を見つけることができます。しかしながら、2変数の数値積分はこれまで行ってきませんでした。

\begin{equation}
\int\int f(x,y) \mathrm{d}x\mathrm{d}y
\end{equation}

Scilabには二重積分を計算することが可能な int2d が存在します。今回は高校数学の美しい物語で解析的に解かれている二重積分を数値的に計算してみます。


積分範囲が長方形領域の場合


積分範囲が長方形の領域の場合、すなわち以下のような式で表すことができる場合は、簡単に数値積分できます。

\begin{equation}
\int_{x_0}^{x_1}\int_{y_0}^{y_1}f(x,y)\mathrm{d}x\mathrm{d}y
\end{equation}

Scilabの int2d では長方形領域を2つの三角形のパッチワークとして与えます。
積分範囲を int2d に渡すために行列XとYを用意します。それぞれ2つの三角形の頂点のx座標とy座標を与えます。

\begin{equation}
X =
\begin{pmatrix}
x_{0} & x_{0} \\
x_{1} & x_{1} \\
x_{1} & x_{0} \\
\end{pmatrix},
Y =
\begin{pmatrix}
y_{0} & y_{0} \\
y_{0} & y_{1} \\
y_{1} & y_{1} \\
\end{pmatrix}
\end{equation}

001_20170423145553b2b.png
Fig.1: Scilabのint2dへの積分範囲の与え方


実際に以下の積分を計算して見ます。

\begin{equation}
\int_{0}^{\pi}\int_{0}^{R}x^4 \sin(y)\mathrm{d}x\mathrm{d}y
\end{equation}

clear;

r = 1;

// *** 積分する関数の定義 ***
function z = func(x,y)
z = (x .^ 4) * sin(y)
endfunction
// 積分範囲
x0 = 0; x1 = r;
y0 = 0; y1 = %pi;

// *** 二重積分 ***
X = [x0, x0;
x1, x1;
x1, x0];
Y = [y0, y0;
y0, y1;
y1, y1];
// 数値解
I = int2d(X, Y, func)
// 解析解
A = 2*(r^5)/5


数値化解と解析解が同じ値になることが確認できます。

積分範囲が三角形の組み合わせで表せる場合


積分範囲が長方形の場合は2つの三角形の組み合わせで表現されますが、より複雑な形状の場合も任意の個数の三角形の組み合わせで表現できるはずです。今回は逆に簡単になってしまいますが、1個の三角形で表現できる例を計算します。

\begin{equation}
\int \int_D xy^2 \mathrm{d}x\mathrm{y}
\end{equation}

jusekibun.png
Fig.2: 積分領域Dが三角形ひとつ分の例


積分領域が三角形ひとつ分なので、与える行列は3行1列になります。

\begin{equation}
X =
\begin{pmatrix}
x_{0} \\
x_{1} \\
x_{1} \\
\end{pmatrix},
Y =
\begin{pmatrix}
y_{1} \\
y_{0} \\
y_{1} \\
\end{pmatrix}
\end{equation}

この計算を行うScilabスクリプトは以下のようになります。

clear;

// *** 積分する関数の定義 ***
function z = func(x,y)
z = x .* (y .^ 2)
endfunction

// *** 二重積分 ***
X = [0;
1;
1];
Y = [1;
0;
1];
// 数値解
I = int2d(X, Y, func)
// 解析解
A = 3/20


このスクリプトも数値解と解析解が同じに値になることが分かります。

同様にしてN個の三角形の組み合わせで表現される積分範囲の場合3行N列の行列で指定することができます。

更に複雑な積分領域の場合


どんなに複雑な積分領域の形状であっても三角形のパッチワークで表現できるはずですが、現実的には大変です。そこでOctaveの精義―フリーの高機能数値計算ツールを使いこなすで紹介されている方法を試してみましたが、現状うまく行っていません。上手く行っていませんがとりあえず方法だけは紹介します。
具体的にはScilabの論理演算で条件分岐の考え方を使って積分領域外では値がゼロになるように被積分関数の定義を行います。

\begin{equation}
\int\int_D -\frac{1}{(2x + y + 1)^2}\mathrm{d}x\mathrm{d}y
\end{equation}

jusekibun2.png
Fig.3: 複雑な積分領域の例


clear;

// *** 積分する関数の定義 ***
function z = func(x,y)
region = y >= x .^ 2
z = - 1 ./ ((2 * x + y + 1) .^ 2) .* region
endfunction

// *** 二重積分 ***
X = [0;
1;
1];
Y = [0;
0;
1];
// 数値解
I = int2d(X, Y, func)
// 解析解
A = (1/3) * log(4) - 1/2


原理的にはこのスクリプトでよいはずですが、実際には正しく計算してくれません。Scilab 6.0ではエラーで停止します。Scilab 5.5.2ではそれっぽい値を返しますが、解析解の値とはかなりずれた値となっており、不正確です。

関連エントリ




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このエントリで使用したファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


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tag: Scilab 数値積分 重積分 

AkaiKKRのSICをOFFにするメモ

  • bccPtの全エネルギーの格子定数依存性に変な不連続
  • SICが原因
  • source/cstate.fの編集で対処可能


bccPt-jump.pngFig.1: bcc Pt の全エネルギージャンプ問題



bccPtの全エネルギーのジャンプ問題


AkaiKKR BBSのStep-wise shift of total energy along with lattice constantsにて体心立方構造(bcc)のプラチナの全エネルギー計算を行うと、特定の格子定数で階段状のエネルギーシフトが起こると報告しています。KKR Administratorさんの返信によると自己相互作用補正(Self-Interaction Correction; SIC)が悪さをしているとのことです。この問題に対処するには明示的にSICをOFFにするなどの方法があります。このためには source/cstate.fsicfalse に指定すればよいとのことです。

問題の再現


まず全エネルギーのジャンプの問題を再現するために以下の入力ファイルのテンプレートを用いて、格子定数を a = 5.2 - 6.6 Bohr の範囲で計算を行いました。

c------------------------------------------------------------
go data/bccPt_ABOHR
c------------------------------------------------------------
c brvtyp a c/a b/a alpha beta gamma
bcc ABOHR, , , , , ,
c------------------------------------------------------------
c edelt ewidth reltyp sdftyp magtyp record
0.001 1.2 sra mjw nmag 2nd
c------------------------------------------------------------
c outtyp bzqlty maxitr pmix
update 4 200 0.01
c------------------------------------------------------------
c ntyp
1
c------------------------------------------------------------
c type ncmp rmt field mxl anclr conc
Pt 1 1 0.0 2
78 100
c------------------------------------------------------------
c natm
1
c------------------------------------------------------------
c atmicx atmtyp
0 0 0 Pt
c------------------------------------------------------------


Fig.1に格子定数と全エネルギーの関係を示します。a = 5.5 Bohr と a = 5.6 Bohr の間で全エネルギーにジャンプがある事がわかります。

source/cstate.fの編集


このエネルギーのジャンプの問題を解決するためには source/cstate.f を編集して再び make し、実行ファイルを作成しなおす必要があります。AkaiKKR BBSでは2種類の解決方法が提示されていますが、今回は単純にSICをOFFにする方法を試します。

source/cstate.f の最初のほうに以下のような記述があります。

      data istop/50/, tol/1d-8/, eb/-20d0/, sic/.true./
& ,eoff/ 1d3, 1d3, 1d3,-4d0/


SICをOFFにするには true の部分を false に編集します。

      data istop/50/, tol/1d-8/, eb/-20d0/, sic/.false./
& ,eoff/ 1d3, 1d3, 1d3,-4d0/


今回のような問題が起こらない場合はSICをONにしておいた方がよいと思われます。私は今回 make した実行ファイルは specx.sicoff という名前で別に保存しました。

SICをOFFにした計算結果をFig.2に示します。

bccPt-SIC-OFF.png
Fig.2: 全エネルギーに不自然なジャンプが無くなった bccPt の格子定数と全エネルギーの関係


全エネルギーに不連続が無くなり a = 5.9 Bohr 付近に平衡格子定数があることが分かります。

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tag: AkaiKKR machikaneyama KKR SIC 

AkaiKKRのk点メッシュ

AkaiKKR(machikaneyama)の計算に使われるk点の数は、入力ファイルの bzqlty で指定されます。計算で実際に使われた既約的ブリルアンゾーンのk点の数は、出力の nk に表示されます。

計算に使用したk点の数の表し方には、既約的ブリルアンゾーンの中のk点数のほかに、全ブリルアンゾーンの中でそれぞれの逆格子ベクトルをメッシュ状に何分割したかを N1 × N2 × N3 のような形で表すやり方もあります。
この分割数の情報は、通常出力されないのですが、必要なら source/bzmesh.fend 文の直前に以下の行を追加することで、出力されるようにできると教えていただきました。

      write(*,'(3x,3(a,i3))')'nfa=',nfa,'  nfb=',nfb,'  nfc=',nfc


fcc等の立方晶の場合は単純に nfa=nfb=nfc=bzqlty となります。

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tag: AkaiKKR machikaneyama KKR bzqlty 

AkaiKKRのewidth対応表

AkaiKKR(machikaneyama)を使って状態密度(dos)やバンド構造(spc)を計算する場合、セルフコンシステント計算(go)のときと ewidth の範囲が異なります。(参考: AkaiKKRのewidth その1, その2)

デフォルトでは、go計算よりdos計算やspc計算のときに1/4だけエネルギー範囲が正の方向へずらしてあります。
したがって、go計算のときにエネルギー範囲の底がコアにかかっていないかを確認したいときには、状態密度(dos)やバンド構造(spc)を計算するときに、すこし大き目の ewidth を選ばなければなら無い事になります。別に厳密な値にしなくてもいいのですが、キリのよさそうな値を一覧にしました。

godos/spc
0.60.8
0.91.2
1.21.6
1.52.0
1.82.4
2.12.8
2.43.2
2.73.6
3.04.0
table.1: go計算とdos計算で計算範囲の底が同じになるようにするためのewidthの設定値


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tag: AkaiKKR machikaneyama KKR ewidth 

AkaiKKRでPd-Rh二相共存領域

二元系の状態図には、全率固溶型や共融型などいくつかのパターンが存在します。Pd-Rhの二元系では、端成分が共に面心立方構造となっています。そのため高温では固溶体となります。しかしながら、低温では二相に分離します。今回はAkaiKKR(machikaneyama)を利用して、この境界となる温度を求めてみます。

Pd-Rh-520.png

Fig.1: Pd-Rh二元系の合金状態図とAkaiKKR(machikaneyama)によって計算された固溶と二相共存の境界温度(紫:マフィンティン近似, 緑:原子球近似)



熱力学


全エネルギーの組成依存性が上に凸の形になる場合、定性的に二相分離が予想されます。境界温度を推定するためには、二相分離した状態と固溶した状態のギブスエネルギーの差がゼロになる条件を探せばよいことが分かります。

\begin{equation}
G = E + PV - TS
\end{equation}

まず、常圧のみを考えると P≒0 としても影響はほとんどありません。エネルギー E の項には、第一原理計算から得られる全エネルギーの他に格子振動の寄与などが考えられますが、二相分離状態と固溶状態の差は小さいと仮定して無視します。

エントロピーSについても配置のエントロピーのほかに格子振動の寄与などが考えられますが、配置のエントロピーのみを考えることにします。するとRh濃度が x のときの全エネルギーの差と、固溶体の配置のエントロピーは、以下の様になります。

\begin{equation}
\Delta E(x) = E_{\mathrm{Pd_{1-x}Rh_{x}}} - \{ (1-x)E_{\mathrm{Pd}} + x E_{\mathrm{Rh}} \} \\
S_m(x) = - k_B \{ (1-x)\ln (1-x) + x \ln (x) \}
\end{equation}

したがって求める温度は以下のようになります。

\begin{equation}
T(x) = \frac{\Delta E(x)}{S_m(x)}
\end{equation}

計算手法


AkaiKKR(machikaneyama)を用いてPd-Rh合金系の全エネルギーを計算しました。交換相関汎関数にはpbeを用いました。シェルスクリプトPdRh_sh.txtを用いて、組成と格子定数を変化させながら、各組成における最安定な格子定数とそのときの全エネルギーを決定しました。ポテンシャルの形状は、マフィンティン近似と原子球近似(ASA)の両方を試しました。

全エネルギーを計算する際に、状態密度の計算も行いました。端成分の状態密度に関してはecaljでも計算し、クロスチェックしました。

結果と議論


Fig.2-3に純粋なPdとRhの状態密度を示します。AkaiKKRで計算した結果とecaljで計算した結果が良く一致していることが分かります。

Pd-DOS.png
Fig.2: Pdの状態密度

Rh-DOS.png
Fig.3: Rhの状態密度


Fig.4にPdの体積と全エネルギーの関係をプロットしたものを示します。ゼロ気圧における体積V0とそのときの全エネルギーE0を得るためにBirch-Murnaghanの状態方程式にフィッティングしました。

\begin{equation}
E(V) = E_0 + \frac{9V_0B_0}{16}\left\lbrace \left[ \left( \frac{V_0}{V} \right)^{\frac{2}{3}} -1 \right]^3 B_0^\prime \\
+ \left[ \left( \frac{V_0}{V} \right)^{\frac{2}{3}} -1 \right]^2 \left[ 6 -4 \left( \frac{V_0}{V} \right)^{\frac{2}{3}} \right] \right\rbrace
\end{equation}

PdRh_0.png
Fig.4: Pdの体積と全エネルギーの関係


フィッティングする体積の範囲はV0付近でフィッティング結果が良くなるように適切に選びます。

得られた全エネルギーから固溶と二相分離の境界の温度をプロットしたのがFig.1です。計算結果は、二元合金状態図集の状態図と比較してあります。Pd-Rh合金の計算ではASAの結果が実験結果を驚くほどよく再現しています。しかしながら、今回のような良い結果が得られるのは、どうやら周期表で同じ周期に隣接している元素同士の合金だけのようです。

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tag: AkaiKKR machikaneyama KKR CPA 二相共存 状態密度 DOS 

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