ecaljでGaAsとスピン軌道相互作用

AkaiKKRで鉛の相対論計算で書いた通りスピン軌道相互作用の有無で結晶のバンド構造は変化します。ecaljのマニュアルにはGaAsを例として、スピン軌道相互作用を含まない計算を行った後から摂動としてスピン軌道相互作用の効果を取り込む方法が書かれているので、今回はこれを実行しました。

001_20150927033607760.png

Fig.1: GaAsのバンド構造(GW近似, スピン軌道相互作用あり)

002_20150927033607397.png

Fig.2: GaAsのバンド構造(GW近似, スピン軌道相互作用なし)


計算の手順


まず通常の手順でLDA計算やGW近似計算を行います。(参考: ecaljの実行手順(LDA計算), ecaljの実行手順(GW近似))

次に新しくディレクトリを作成し、そこへ以下の2つ(GW近似計算場合は4つ)のファイルをコピーします。
  • ctrl.gaas
  • rst.gaas
  • (sigm.gaas)
  • (QGpsi)

更に、コピーした ctrl.gaas のパラメータを下記のように変更します。
  • nspin=2
  • so=1
  • Q=band

該当箇所は以下のようになります。
% const pwemax=3 nk1=4 nk2=4 nk3=4 nit=30  gmax=12  nspin=2 metal=3 so=1 xcfun=1 ssig=1.0

Q=band # (this is quit switch if you like to add)

Q=bandはデフォルトでコメントアウトされているので、コメントアウトを外します。

この状態で再び lmf を実行します。
lmf gaas

その後、通常通り job_band を実行すれば、スピン軌道相互作用を含むバンド図を描くことができます。

スピン軌道相互作用とバンド構造


AkaiKKRで鉛の相対論計算で書いた通り、相対論の効果によりバンドの縮退が解けます。

003_20150927033607045.png

Fig.3: GaAsのバンド構造(LDA, スピン軌道相互作用あり)

004_20150927033606869.png

Fig.4: GaAsのバンド構造(LDA, スピン軌道相互作用なし)


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tag: ecalj スピン軌道相互作用 相対論 半導体 GW近似 

AkaiKKRでコバルトの結晶磁気異方性

AkaiKKRでは、結晶格子の指定に基本ベクトルを利用することができます。このようにしておくと、結晶格子を簡単に回転させたり歪ませたりする事ができます。
今回は、結晶を回転させる例として六方最密充填構造(hcp)のコバルトの結晶磁気異方性を調べます。AkaiKKRでは、スピン軌道相互作用を含む相対論計算(srals)を行うと、磁化の向きをz軸方向にとるようです。そこで結晶(と同時に磁化の向き)を回転させたときに全エネルギーがどのように変化するかから磁化容易軸を探しました。


SRALS.png
Fig.1: 全エネルギーとx軸周りの回転角度の関係。θ=0度でc軸とz軸が平行となり、θ=90度で直行する。


結果は、磁化の向きがc軸方向と平衡になったときに全エネルギーが最小となりました。この事はコバルトの磁化容易軸がc軸であるという実験事実と調和的となりました。この方法が結晶磁気異方性を調べるために妥当な方法なのかは良く分かりませんが、少なくとも結晶を回転させることはできました。


結晶の基本ベクトルと回転


AkaiKKR(machikaneyama)では結晶構造の指定にブラベ格子と基本構造の組み合わせを利用します。ブラベ格子の指定方法には、キーワードを使う方法(AkaiKKRのブラベ格子)と基本ベクトルを直接指定する方法(AkaiKKRの基本並進ベクトル その1その2)があります。

基本ベクトルは、その名前のとおりベクトルです。AkaiKKRは基本ベクトルの成分を直交座標系で表現します。
AkaiKKRの基本並進ベクトル その2では、六方最密充填構造(hcp)コバルトを、直交座標系におけるz軸を中心に反時計回りに30度回転させた場合のファイルを作成しました。

より一般的に、ベクトルは回転行列をかけることによって任意の角度に回転させることができます。
例えばベクトルa0=(ax0, ay0, az0)をx軸の周りにθだけ回転させるときの回転行列は以下のようになります。

matrix001.png

これを縦ベクトルで成分表示したa0ベクトルにかけると

\begin{equation*}\begin{pmatrix}a_x \\a_y \\a_z\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1 & 0 & 0 \\0 & \cos\theta & -\sin\theta \\0  \sin\theta & \cos\theta\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a_{x0} \\a_{y0} \\a_{z0}\end{pmatrix}\end{equation*}

同様にb0ベクトルc0ベクトルも回転させると、各成分は以下のようになります。

ax = ax0
ay = ay0cosθ - az0sinθ
az = ay0sinθ + az0cosθ

bx = bx0
by = by0cosθ - bz0sinθ
bz = by0sinθ + bz0cosθ

cx = cx0
cy = cy0cosθ - cz0sinθ
cz = cy0sinθ + cz0cosθ

コバルトの結晶磁気異方性


強磁性体の自発磁化の方向は、結晶の特定の方向に向きやすい性質があります。磁化が向きやすい方向を磁化容易軸、向きにくい方向を磁化困難軸とよびます。hcp構造の強磁性金属であるコバルトは、結晶のc軸方向に磁化容易軸を持っていることが知られています。

AkaiKKRでは相対論の効果を取り入れるのに、スピン軌道相互作用を含まないスカラー相対論計算(sra)とスピン軌道相互作用まで含むフルの相対論(srals)の両方が可能です(AkaiKKRで鉛の相対論計算)。結晶磁気異方性の主たる起源としてはスピン軌道相互作用が挙げられるということですが(磁気異方性(Wikipedia))、AkaiKKRでスピン軌道相互作用の計算をすると、スピン量子化軸は、直交座標系のz軸方向にとられるようです。

そこでスピン軌道相互作用を含む相対論の計算を、hcpコバルトのc軸の方向を変えながら行うことで、全エネルギー最小の条件から磁化容易軸の方向が決まるのではないかと考えました。(ただしこの考え方が正しいのかは良く分かりません。)

計算手法


基本ベクトルをx軸の周りに0度から90度まで10度ごとに回転させた入力ファイルをスカラー相対論(sra)とスピン軌道相互作用まで含めた相対論(srals)の両方で計算しました。

以下に示すのが、入力ファイルのテンプレートです。

c----------------------Co------------------------------------
go data/rotCo_SRALS_DEGREE
c------------------------------------------------------------
c brvtyp
aux
AX AY AZ
BX BY BZ
CX CY CZ
4.74
c------------------------------------------------------------
c edelt ewidth reltyp sdftyp magtyp record
0.001 1.4 srals gga91 mag 2nd
c------------------------------------------------------------
c outtyp bzqlty maxitr pmix
update 8 200 0.023
c------------------------------------------------------------
c ntyp
1
c------------------------------------------------------------
c type ncmp rmt field mxl anclr conc
Co 1 1 0.0 2
27 100
c------------------------------------------------------------
c natm
2
c------------------------------------------------------------
c atmicx atmtyp
0a 0b 0c Co
1/3a 2/3b 1/2c Co
c------------------------------------------------------------


上記入力ファイルのテンプレートから、c軸の向きを変化させた入力ファイルを作成しセルフコンシステント計算を実行するシェルスクリプトがrotation_sh.txtです。

結果と議論


予想通りスカラー相対論の計算に関しては、回転をさせても全エネルギーに変化は見られませんでした。一方でスピン軌道相互作用を考慮に入れたフル相対論の結果は冒頭のFig.1に示したような角度依存性が見られました。θ=0度で全エネルギーが最小となり、これは結晶のc軸と直交座標系のz軸が平行になるときに対応します。すなわち、c軸方向に磁化の向きをとったという意味です。逆にθ=90度のときに全エネルギーが最大になり、これは磁化の向きがab面方向にあるときです。
実験的に知られている磁化容易軸はc軸方向なので、計算結果は実験事実と調和的であるといえます。

ただし、今回はコバルトだけに触れますが、体心立方構造(bcc)の鉄や面心立法構造(fcc)のニッケルについて同様の計算を行うと、結果は微妙な感じです。なので、この方法が結晶磁気異方性を調べるために妥当な方法なのかは確信が持てません。

関連エントリ




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付録


このエントリで使用したLTspiceのシミュレーション用ファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


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AkaiKKRで鉛の相対論計算

第一原理計算パッケージには多くの場合、相対論の効果を取り入れるか否かのオプションがあります。
AkaiKKR(machikaneyama)では、非相対論計算、スカラー相対論計算、スピン軌道相互作用を考慮した計算をすべてサポートしています。今回は比較的重い元素である鉛のバンド構造に関して、上記のオプションを変えながら計算してみました。

その結果、相対論の効果を取り入れるとバンドの分裂が起きることを確認しました。
また、非相対論計算とスカラー相対論計算の計算時間はほとんど変わない一方で、スピン軌道相互作用を含めた計算を行うと、4倍以上もの計算時間が必要となりした。


スカラー相対論とスピン軌道相互作用


第一原理計算パッケージの多くは、相対性理論の効果を考慮した計算と考慮しない計算を選んで実行させることができる機能を持ちます。
相対論の効果を入れた計算には、スピン軌道相互作用まで考慮した計算と、スピン軌道相互作用を考慮しないスカラー相対論と呼ばれるものとがあります(参考: 相対論的第一原理計算の手法開発)。
スピン軌道相互作用の計算は難しいので、サポートしない第一原理計算パッケージもありますが、AkaiKKR(machikaneyama)では、スカラー相対論とスピン軌道相互作用まで考慮した計算の両方をサポートしています。具体的には入力ファイルのreltypをnrl(非相対論)、sra(スカラー相対論)、srals(スピン軌道相互作用を含む相対論)に指定することでそれぞれの計算を行うことができます。

当然ながら近似の度合いが少ないのはsrals, sra, nrlの順番なので、正しい結果を得ることだけが目的なら常にsralsを指定すればよいことになります。しかしながら、後述する通り、スピン軌道相互作用の計算はスカラー相対論や非相対論とくらべて大幅に時間がかかるので、スピン軌道相互作用が重要ではなさそうな系では、スカラー相対論の範囲で収めたいところです。
実際、今回の鉛の例ではスピン軌道相互作用の計算は、スカラー相対論や非相対論の計算と比較して4倍以上の時間がかかりました。なお、スカラー相対論と非相対論の計算時間はほとんど変わらない模様です(参考: 第一原理バンド計算(基礎編))。

相対論の効果は、多くの場合、原子番号の大きい重い元素を含む場合において重要になるとされています。しかしながら、スピン軌道相互作用に関しては必ずしもそういったわけでもなく、軽い元素であっても重要になることがあるようです(連載:”徹底解剖 第一原理計算”の支援ページ(試作版))。

鉛のバンド構造


スピン軌道相互作用を考慮したバンド計算の例題として、Osaka2002 nanoのテクニカルノートにNo. 101 「スピンー軌道相互作用をいれたバンド計算」(PDF)があります。今回のエントリでは、この中で取り上げられている物質の中から面心立方構造(fcc)の鉛(Pb, 原子番号82)のバンド構造の計算を行います。格子定数は 4.9502Å ≒ 9.355 Bohr とし、入力ファイルはとなりました。ただしフェルミ準位よりも上のエネルギー範囲を広めにプロットしたかったので source/cemesr.f の data ref/0.75d0/ を data/ ref/0.5d/ に変更してコンパイルしました(参考: DOS and band structure over the Fermi level (in japanese))。

結果


以下に非相対論、スカラー相対論、スピン軌道相互作用まで含む相対論の計算結果を順番に示します。相対論の効果を入れることによって定性的にバンドが分裂していくと連でであることが読み取れます。

PbNRL.png

Fig.1: 非相対論計算


PbSRA.png

Fig.2: スカラー相対論計算


PbSRALS.png

Fig.3: スピン軌道相互作用を含む相対論計算


計算時間


私の環境ではCPUの処理時間は以下のようになりました。

相対論効果計算時間(秒)
非相対論(nrl)38.03
スカラー相対論(sra)37.52
スピン軌道相互作用(srals)169.98
table.1: 相対論効果の扱いと計算時間


結果を見ての通りスピン軌道相互作用まで含めた相対論計算には、スカラー相対論の計算と比較してはるかに時間がかかります。

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したAkaiKKRの入力ファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


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