Scilabで自発磁化の温度依存性

磁性入門―スピンから磁石まで (材料学シリーズ)では、ワイスの分子場近似を用いた磁化の温度依存性を解析的に表す式が以下のように書かれています。

_eq_htcs.png

今回は、これをScilabの非線型方程式ソルバfsolveを用いて数値的に解きます。(参考:Scilabで非線形方程式ソルバ その1)

001_2015081913143435a.png
Fig.1: 遷移金属の磁気モーメントの温度依存性



自発磁化の温度依存性


磁性入門―スピンから磁石まで (材料学シリーズ)によると、スピン角運動量 S=1/2 の場合、自発磁化 M(T) は

M(T) = N \mu_B \tanh \left( \frac{\alpha \mu_B M(T)}{k_B T} \right)

ここで T=0 (K) のときの磁化 M0=M(0) は

M_0 = N \mu_B

であり、キュリー温度TC

T_C = \frac{\alpha N \mu_B^2}{k_B}

したがって

\frac{M(T)}{M_0} = \tanh \left(\frac{M(T)}{M_0} \frac{T_C}{T} \right)

となるのでScilabなどの非線型方程式ソルバ(fsolve)で解く事が可能です。
したがって基底状態の自発磁化M0とキュリー温度TCの二つのパラメータから磁化温度曲線を内挿することができます。

数値計算


実際にScilabを使って計算した結果が冒頭のFig.1です。
赤、緑、青の点はCrangle and Goodman (1971)により報告されている、鉄・ニッケル・コバルトの実験値です。
大雑把な仮定と簡単な式から計算したことを考えると、そんなに悪くない結果ではないかと思います。

なお、M0とTCはどちらもAkaiKKR(machikaneyam)を用いて計算できます。しかしながら、計算されるキュリー温度はかなりの過大評価です。例えば、体心立方構造(bcc)鉄の場合は、TC=1043 Kの実験値に対して、AkaiKKRの計算では TC=1616 Kと約55%も過大評価となります。(AkaiKKRで鉄のキュリー温度の計算のときはTC=1229 Kでしたがbzqltyを上げてpbeで計算するとTC=1616 Kとなりました。いずれにせよ過大評価です。)

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したScilabスクリプトを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


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tag: Scilab 非線型方程式ソルバ 強磁性 キュリー温度 平均場近似 

AkaiKKRで鉄のキュリー温度

強磁性体のキュリー温度は、平均場近似から以下のように求めることが出来ます。

T_c = \frac{2}{3ck_B}\Delta E

(Tc: キュリー温度, c: 磁性原子の濃度 (0 < c ≦ 1), kB: ボルツマン定数, ΔE: 常磁性状態と強磁性状態の間のエネルギー差)

計算機マテリアルデザイン入門 (大阪大学新世紀レクチャー)密度汎関数法の発展 -マテリアルデザインへの応用では、平均場近似とAkaiKKR(Machikaneyama)による全エネルギー計算による強磁性体のキュリー温度の見積もりが紹介されています。

今回は、これらに倣って鉄のキュリー温度を計算しました。計算結果は Tc = 1260 (K) となり、鉄のキュリー温度の実測値である Tc = 1043 (K) と近い値が得られました。

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AkaiKKRと平均場近似によるキュリー温度の計算


計算機マテリアルデザイン入門 (大阪大学新世紀レクチャー)によると、強磁性体のキュリー温度は平均場近似を用いて以下のように求めることが出来ます。

T_c = \frac{2}{3ck_B}\Delta E

(Tc: キュリー温度, c: 磁性原子の濃度 (0 < c ≦ 1), kB: ボルツマン定数, ΔE: 常磁性状態と強磁性状態の間のエネルギー差)

強磁性状態のエネルギーは、AkaiKKRでニッケル・鉄・コバルトで行った様に簡単に計算できます。一方で、常磁性状態の計算は非磁性(nmag)の計算とは異なります。

(なのでAkaiKKRで鉄の安定相と格子定数の非磁性の計算をδ鉄と呼ぶのは間違いだったということです。すみません。)

常磁性状態は、それぞれの原子の置ける磁気モーメントがランダムな向きを向いている状態です。しかしながら、第一原理計算でこの状態を再現するのは難しいようです。

そこでAkaiKKRでは、常磁性状態の代わりに不規則局所モーメント状態の計算を行います。これは上向きの磁気モーメントをもつ原子と下向きの磁気モーメントを持つ原子が半分ずつ不規則合金となったもので、局所的には磁気モーメントを持ちながら、金属結晶全体ではモーメントが無いという特徴を持っています。

今回は『平均場近似』と『常磁性状態の変わりに不規則局所モーメント状態を計算する』という2つの近似の下に鉄のキュリー温度を計算します。

fmg.fのコンパイル


CygwinでAkaiKKR(Machikaneyama)ではAkaiKKR本体をcygwinのg77でコンパイルしました。AkaiKKRには不規則局所モーメント状態のための初期ポテンシャルデータを作成するための補助プログラムとしてfmg.fが付属していますので、これをコンパイルします。

計算機マテリアルデザイン入門 (大阪大学新世紀レクチャー)のP255に書いてある通りCygwinの端末上でutilフォルダに移動した後
~/cpa2002v009c/util> f77 -o fmg fmg.f

とタイプします。コンパイルが成功すればfmg.exeという実行ファイルが出来ているはずです。

計算手順


第一原理計算の部分をまとめて実行するために、あらかじめ必要なファイルを全て用意しておきましょう。
準備する入力ファイルは下記の3つです。
  • 強磁性状態のための入力ファイル: fefmg.in
  • 不規則局所モーメント状態のための入力ファイル: felmd.in
  • fmg.exeのための入力ファイル: fefmg


キュリー温度を求めるためには、2つの状態の全エネルギーを求めるだけでよいのですが、今回は状態密度も同時に計算できる入力ファイルを準備しました。
各入力ファイルの準備が完了したら、いよいよAkaiKKRを用いた第一原理計算を実行します。
手順は以下のようになります。

  1. 強磁性状態の計算
  2. fmg.exeを利用した強磁性状態のポテンシャルファイルからの不規則局所モーメント状態のための初期ポテンシャル作成
  3. 不規則局所モーメント状態の計算


上記の手順を人間が行っても良いのですが、一気にやってくれるシェルスクリプトFe.shを用意しました。

Curie/─┬─in/─┬─fefmg.in
│ └─felmd.in
├─out/
├─data/
├─Fe.sh
└─fefmg


上記のようなディレクトリ構成としてFe.shをCygwin端末上で実行します。

キュリー温度


3度目の掲示になりますが、下記が平均場近似によるキュリー温度の算出式です。

T_c = \frac{2}{3ck_B}\Delta E

(Tc: キュリー温度, c: 磁性原子の濃度 (0 < c ≦ 1), kB: ボルツマン定数, ΔE: 常磁性状態と強磁性状態の間のエネルギー差)

ここで磁性原子の濃度はc=1です。
AkaiKKRによる全エネルギーはRyの単位で出力されるのでJへ変換する必要があります。

1 (Ry) = 2.179 872×10-18 (J)

またボルツマン定数は

kB = 1.3806488×10-23 (J/K)

です。

Efmg = -2522.8176206 (Ry)
Elmd = -2522.8055978 (Ry)

なので、求められた全エネルギーからキュリー温度は Tc = 1259.194 (K) と計算されました。この値は鉄のキュリー温度の実測値である Tc = 1043 (K) と近い値です。

状態密度


ついでに計算を行った強磁性鉄と不規則局所モーメント鉄の状態密度を示します。


001_20130924035510a8c.png

Fig.1: 常磁性状態の状態密度

002_201309240355099cc.png

Fig.2: 不規則局所モーメント状態の状態密度


状態密度のプロットは以下のファイルによって行いました。



Appendix: 改行コードの問題


WindowsでCygwinを使う上での特有の事ですが、改行コードの問題があります。
Windowsでは普通改行コードにCR+LFを用います。ところがLinuxではLFを利用します。

今回利用したシェルスクリプトFe.shとfmg.exeのための入力ファイルfefmgはどちらもLinux流のLFの改行コードで無いと正常に動作しません。

エラーが出た場合は確認してみてください。

関連エントリ




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付録


このエントリで使用した色々なファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)



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