PWscfでSiのフォノンバンド

5月14日(木)にCCMS Webハンズオン: MateriApps LIVE!講習会を受講させていただきました。この講習会の自由演習で、シリコンのフォノン分散の計算方法を習ったので、今回はその復習をします。

001_20200622164420840.png

Fig.1: Siのフォノン分散



Hands on phonoのエクセサイズ


実習の内容はQuantum EspressoでSiのフォノンバンド図を作成するに書かれているとおりです。この内容自体も2014年のSummer Schoolの資料を基にしています。そのHands on Phononには4つのエクセサイズが収められています。
  1. SiのΓ点フォノン
  2. Siのフォノン分散
  3. AlAsのΓ点フォノン
  4. Alのフォノン分散

なおHands_on_phonons.tar.gzの中のPDFファイルに解説があるので自習が可能です。CCMS Webハンズオンで行ったのはエクセサイズ2のSiのフォノン分散計算です。

Hands-on-Phononの準備


Hands-on-Phonon全体の準備として、ファイルのダウンロードと展開を行います。計算に必要な擬ポテンシャルファイルもついでにダウンロードしておきます。
これらを行うコマンドは以下の通りです。

mkdir qe-ph-test
cd qe-ph-test
wget http://www.iiserpune.ac.in/~smr2626/hands_on/week2/july9/Hands_on_phonons.tar.gz
tar xzvf Hands_on_phonons.tar.gz
mkdir pseudo
wget -O ./pseudo/Si.pbe-rrkj.UPF http://www.quantum-espresso.org/wp-content/uploads/upf_files/Si.pbe-rrkj.UPF
wget -O ./pseudo/Al.pz-vbc.UPF https://www.quantum-espresso.org/upf_files/Al.pz-vbc.UPF
wget -O ./pseudo/As.pz-bhs.UPF https://www.quantum-espresso.org/upf_files/As.pz-bhs.UPF
wget -O ./pseudo/Al.pbe-rrkj.UPF https://www.quantum-espresso.org/upf_files/Al.pbe-rrkj.UPF
cd Hands_on_phonons


Siのフォノンバンド計算の概要


今回のエントリの本編であるSiのフォノンバンド計算のコマンドをいかに示します。

cd exercise-2/
mpirun -np 4 -x OMP_NUM_THREADS=1 pw.x < si_scf.in | tee si_scf.out
sed -i "1itestsi" si_ph.in
mpirun -np 4 -x OMP_NUM_THREADS=1 ph.x < si_ph.in | tee si_ph.out
mpirun -np 4 -x OMP_NUM_THREADS=1 q2r.x < q2r.in | tee q2r.out
mpirun -np 4 -x OMP_NUM_THREADS=1 matdyn.x < matdyn_Si_disp.in |tee matdyn_Si_disp.out
plotband.x
si.freq
0 500
siph.plot
siph.ps
0
100 0

plotband.xは計算したフォノンバンドの数値データから対話的にグラフを作成するプログラムです。plotband.x以降の行は、このプログラムに対話的に与えるパラメータを示しています。

上記の手順で実際に行っているのは
  1. セルフコンシステント計算(電子状態計算)
  2. フォノン計算
  3. q→r計算(動的マトリクスのフーリエ変換)
  4. フォノン分散計算
  5. グラフの作成

です。通常の電子のバンド構造計算や電子の状態密度計算では、セルフコンシステント計算を行ったのちポストスクリプト処理としてバンド構造や状態密度の計算を行います。フォノンの計算では1-3の計算を行ったのちに、フォノンのバンド構造計算やフォノンの状態密度計算などのポストスクリプト処理を行うイメージです。

1. セルフコンシステント計算(電子状態計算)


セルフコンシスト計算は、通常のものです。フォノンの計算であっても電子状態計算は必要です。
以下がセルフコンシステント計算用の入力ファイル si_scf.in です。
&control
calculation = 'scf'
restart_mode='from_scratch',
prefix='si',
tstress = .true.
tprnfor = .true.
pseudo_dir = '../../pseudo',
outdir='tmp'
/
&system
ibrav= 2, nat= 2, ntyp= 1,celldm(1)=10.3463,
ecutwfc =20.0, ecutrho=80.0,nbnd=8
occupations='fixed',
/
&electrons
mixing_mode = 'plain'
mixing_beta = 0.5
conv_thr = 1.0d-10
/
&ions
/
&cell
/

ATOMIC_SPECIES
Si 28.086 Si.pbe-rrkj.UPF

ATOMIC_POSITIONS {crystal}
Si 0.00000 0.00000 0.00000
Si 0.25000 0.25000 0.25000


K_POINTS {automatic}
6 6 6 1 1 1


実行ファイル pw.x で計算を行います。
mpirun -np 4 -x OMP_NUM_THREADS=1 pw.x < si_scf.in | tee si_scf.out


2. フォノン計算


以下がフォノン計算用の入力ファイル si_ph.in です。
nq1=4,nq2=4,nq3=4 がq点の分割数です。fildyn='si.dynmat',は計算結果の保存先ファイル名で、実際にはこの文字列の後に連番のついたファイルが生成されるようです(si.dynmat0, sidynmat1...など)。これらのファイルを次のq→r計算で利用するようです。tr2_ph=1.0d-14,が収束条件で 1.0d-14 より小さくする方がよいとの事。

testsi
&inputph
outdir='./tmp/',
prefix='si',
ldisp=.true.
nq1=4,nq2=4,nq3=4
fildyn='si.dynmat',
tr2_ph=1.0d-14,
amass(1)=28.086
/


上記の入力ファイルには既に書き込まれていますが Hands_on_phonons.tar.gz の入力ファイルでは、最初の行にタイトルが書かれていません。テキストエディタで行頭に適当な文字列(今回の場合は"testsi")を書き込む必要があります。今回はテキストエディタではなく sed コマンドを用いてファイルの先頭行に文字列を挿入してみました(参考:sedコマンドでファイルの先頭行に文字列を挿入する)。フォノン計算の実行ファイルは、電子のセルフコンシステント計算のときとは異なり ph.x を用います。
sed -i "1itestsi" si_ph.in
mpirun -np 4 -x OMP_NUM_THREADS=1 ph.x < si_ph.in | tee si_ph.out


3. q→r計算(動的マトリクスのフーリエ変換)


q空間(波数空間)からr空間(実空間)への変換...との事です。

以下が入力ファイル。短いですが理解しておくべきことは多いです。
まず fildyn='si.dynmat', が入力ファイルです。フォノン計算で指定した出力ファイルと同じ文字列を書きます。次に flfrc='si444.fc' が出力ファイルで、次のフォノン分散計算やフォノン状態密度計算の入力ファイルとして使われます。zasr='simple' が Acoustic sum rule (ASR) の設定です。今回は simple を採用していますが、この設定だとΓ点の音響フォノンが(厳密には)ゼロになりません。普通の三次元結晶の場合は zasr='crystal' とする方がよいとされています(参考: Quantum ESPRESSO入力ファイル作成手順14.Phonon計算(バンド構造))。
&input
fildyn='si.dynmat',
zasr='simple'
flfrc='si444.fc'
/


実行ファイルは q2r.x です。
mpirun -np 4 -x OMP_NUM_THREADS=1 q2r.x < q2r.in | tee q2r.out


4. フォノン分散計算


ポストスクリプト処理として、ついにフォノンの分散関係(バンド構造)の計算を行います。

まず前述の ASR の設定が asr='simple', です。q→rの計算で crystal を指定した場合は、こちらもそろえた方がよいでしょう。flfrc='si444.fc' が、q→rの計算結果の入力ファイル。flfrq='si.freq'が出力ファイル名の指定です。ファイル後半の数字の羅列は、計算する q点の経路です。5 と書いてあるのが、通る特徴的な q点の数(つまりこの後に何行あるか)で、それに続く各行が q点の座標とその分割数です。下記の例の場合 Γ→X→W→L→Γ という経路をそれぞれ10分割するという意味です。
 &input
asr='simple',
amass(1)=28.0855,
flfrc='si444.fc', flfrq='si.freq'
q_in_band_form=.true.
/
5
0.0000000 0.0000000 0.0000000 10
0.0000000 0.0000000 1.0000000 10
0.5000000 0.0000000 1.0000000 10
0.5000000 0.5000000 0.5000000 10
0.0000000 0.0000000 0.0000000 1


実行ファイルは matdyn.x です。
mpirun -np 4 -x OMP_NUM_THREADS=1 matdyn.x <  matdyn_Si_disp.in |tee matdyn_Si_disp.out

実行すると si.freqsi.freq.gp という二つのファイルが出力されます。後者の gp ファイルの方が gnuplot などでプロットするのに向いている数値ファイルです。

5. グラフの描画


ここまででフォノンの分散関係の計算結果が数値データとして得られています。この si.freq.gp の冒頭部分を以下に示します。(話がそれますがΓ点の音響フォノンが厳密にゼロになっていますね...たぶん私がASRにcrystalを指定して計算したのだと思います...このブログ通りに計算するとちょっと違った値になるかもしれません。)
  0.000000      -0.0000   -0.0000    0.0000  499.9411  499.9411  499.9411
0.100000 30.1467 30.1467 50.2804 497.9306 497.9306 499.4990
0.200000 59.2966 59.2966 99.5601 491.9361 491.9361 497.8325
0.300000 86.2601 86.2601 147.0152 482.3522 482.3522 494.2054
0.400000 109.5528 109.5528 192.0843 470.4851 470.4851 488.0585
0.500000 127.5939 127.5939 234.4387 458.6896 458.6896 479.3392
0.600000 139.4024 139.4024 273.8876 449.5627 449.5627 468.3264
0.700000 145.4470 145.4470 310.2766 444.5044 444.5044 455.1737
0.800000 147.6191 147.6191 343.4150 439.6134 442.9610 442.9610
0.900000 148.0519 148.0519 373.0548 421.0602 443.1545 443.1545
1.000000 148.0663 148.0663 398.9590 398.9590 443.4316 443.4316
1.050000 149.2370 149.2370 397.5904 397.5904 443.8141 443.8141
1.100000 152.6482 152.6482 393.6993 393.6993 444.7982 444.7982
1.150000 158.0147 158.0147 387.7863 387.7863 446.0406 446.0406
1.200000 164.9082 164.9082 380.4216 380.4216 447.2434 447.2434
1.250000 172.7949 172.7949 372.1743 372.1743 448.2391 448.2391

1列目はq点の経路の道のりで 2-6列目がフォノンの振動数(cm-1)です。基本的にはこれをそのままプロットすればよいのですが、きれいな図にするためには q点の道のりと特徴的なq点の記号の対応関係を知る必要があります。別に何も難しくないのですが、わざわざそれ用の plotband.x という対話式の実行ファイルが用意されているのでそれを利用します。以下のように順次入力していきます。
plotband.x
si.freq
0 500
siph.plot
siph.ps
0
100 0

ここで重要なのが0 500を入力した後に出力される以下の部分です。
high-symmetry point: 0.0000 0.0000 0.0000 x coordinate 0.0000
high-symmetry point: 0.0000 0.0000 1.0000 x coordinate 1.0000
high-symmetry point: 0.5000 0.0000 1.0000 x coordinate 1.5000
high-symmetry point: 0.5000 0.5000 0.5000 x coordinate 2.2071
high-symmetry point: 0.0000 0.0000 0.0000 x coordinate 3.0731

この x coordinate の後に出力されるのが、その前に出力される特徴的な q点に対応する経路の道のりです。

これを踏まえて、フォノンバンド分散をプロットする gnuplot スクリプトを以下のように作成しました。
set terminal pngcairo size 520,390
set output "siph.png"

set xrange [0:3.073132]
set yrange [0:500]

set grid x

set ylabel "Frequency (cm^{-1})"
set xtics ("{/Symbol G}" 0.0000, "{X}" 1.0000, "{W}" 1.5000, "{L}" 2.2071, "{/Symbol G}" 3.0731)

# plot "si.freq.gp" u 1:2 w l lc 1 not,\
# "si.freq.gp" u 1:3 w l lc 1 not,\
# "si.freq.gp" u 1:4 w l lc 1 not,\
# "si.freq.gp" u 1:5 w l lc 1 not,\
# "si.freq.gp" u 1:6 w l lc 1 not,\
# "si.freq.gp" u 1:6 w l lc 1 not,\
# "si.freq.gp" u 1:7 w l lc 1 not
plot "siph.plot" u 1:2 w l lc 1 not


6. フォノン状態密度計算


ついでにフォノンの状態密度(DOS)の計算方法について書きます。Hands_on_phonons.tar.gzの中に入力ファイルが収められているにもかかわらず付属のPDFなどでも触れられていませんが、簡単です。以下が入力ファイルです。nk1=4, nk2=4, nk3=4,がq点の分割数なのですが 4*4*4 だと心もとない雰囲気を感じたので、私は 16*16*16 で計算しました。
 &input
asr='simple',
amass(1)=28.0855,
flfrc='si444.fc', flfrq='si.freq.dos'
dos=.true.,
fldos='si.dos'
deltaE=1.d0,
nk1=4, nk2=4, nk3=4,
/

実行ファイルはフォノンの分散関係で用いたのと同じ matdyn.x です。
mpirun -np 4 -x OMP_NUM_THREADS=1 matdyn.x <  matdyn_Si_dos.in | tee matdyn_Si_dos.out

プログラムを実行すると si.dos というファイルが出力されます。これが状態密度の数値データを格納したファイルです。
これをプロットするために以下のような gnuplot のスクリプトを書きました。
set terminal pngcairo size 520,390
set output "si.phdos.png"

set xrange [0:500]
set xlabel "Frequency (cm^{-1})"

set yrange [0:0.1]
set ylabel "DOS"

plot "si.dos" u 1:2 w l lc 1 not

するとFig.2のような画像が得られます。

002_20200622164421f48.png
Fig.2: フォノンの状態密度(DOS)


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tag: PWscf フォノン 

デバイ模型

デバイ模型やデバイ温度といった言葉は、固体物理学の分野でたびたび目にします。
近似自体は、非常に単純なものなのですが、あらゆる物性に顔を出す反面、初歩的な教科書には比熱のことしか書いてなかったりするので、ときどき良く分からなくなったりします。
デバイ模型は、そもそも、フォノンの分散関係を近似的に表すための模型であり、そこから(格子比熱を含む)色々な物性を計算することができるようになります。
今回は、デバイ模型の仮定している近似についてまとめると共に、デバイ温度が現れる物性の計算式を列挙します。

001_201511080539137af.png

Fig.1: Quantum ESPRESSOで計算したダイヤモンドのフォノンの分散関係



フォノンの分散関係と物性値


結晶の格子振動(フォノン)にだけに依存する物性値は、フォノンの分散関係が分かればすべて計算できるということになっています。デバイ模型(Debye model)やアインシュタイン模型(Einstein model)は、単純に格子比熱を計算するためだけのモデルだと見做される事もありますが、本来はこの分散関係を近似的にあらわす模型です。したがって、デバイ模型を使えば格子比熱以外の物性も計算することができます。

フォノンの分散関係は、以下の式で表され、一般には複雑な形状をしています。

\begin{equation}
\omega = \omega(\vec{q})
\end{equation}

ここで$\omega$は角振動数で$\vec{q}$は波数ベクトルです。Fig.1に示したのは、Quantum ESPRESSOで計算したダイヤモンドのフォノンの分散関係です。音響フォノンと光学フォノンの両方を持っていること、異方性を持っていることなどが分かります。

デバイ模型の2つの仮定


そこで、デバイ模型では「分散関係をシンプルな形で表す」「異方性をなくす」という二つの方針で簡単な式に置き換えます。

仮定(1) 角振動数$\omega$は波数$q$に比例し、その比例定数を音速$v$とする
\begin{equation}
\omega = v q
\end{equation}

仮定(2) ブリュアンゾーン(BZ)を同じ体積の球で置き換える
\begin{equation}
q_D = \left( \frac{6 \pi^2 N}{\Omega} \right)^{\frac{1}{3}}
\end{equation}
ここで$q_D$はデバイ波数と呼ばれ、体積Ωとその中の原子の数Nのみで表すことができます。

この波数$q$は、$0 \leqq q \leqq q_D$の範囲に限られます。この$q_D$は、体積Ωと原子数Nだけで決まるので、デバイ模型を特徴付けるパラメータは、音速$v$のみということになります。しかしながら、音速$v$はこの用途にはあまり使われず、代わりにデバイ温度$\Theta_D$がよく使われます。音速$v$とデバイ温度$\Theta_D$は、いったんエネルギーの次元で考えた後、以下のように換算できます。
\begin{equation}
k_B \Theta_D = \hbar \omega_D = \hbar v q_D \\
\therefore v = \frac{k_B \Theta_D}{\hbar q_D}
\end{equation}

以降では、デバイ模型のパラメータであるデバイ温度 ΘD が出てくる物性値について列挙します。

熱力学


ヘルムホルツの自由エネルギー(ヘルムホルツエネルギー)は、以下のような式で、エネルギー E の項とエントロピー S の項から表されます。
\begin{equation}
F=E-TS
\end{equation}
エネルギーにせよエントロピーにせよ、色々な原因による項(磁性、配置のエントロピー、電子比熱によるエントロピーなど)がありますが、格子系のエネルギーとエントロピーをデバイ模型を用いて表します。(参考: AkaiKKRで金属の熱物性)

格子系のエネルギー
\begin{equation}
E_D = 3 N k_B T \left( \frac{T}{\Theta_D} \right)^3 \int_0^{\Theta_D / T} \frac{z^3}{\exp(z)-1} \mathrm{d}z + E_0
\end{equation}

ゼロ点エネルギー
\begin{equation}
E_0 = \frac{9}{8} N k_B \Theta_D
\end{equation}

格子系のエントロピー
\begin{equation}
S_D = 3 N k_B \left[ \frac{4}{3} \left( \frac{T}{\Theta_D} \right)^3 \int_0^{\Theta_D / T} \frac{z^3}{\exp(z) - 1} \mathrm{d}z \\ - \ln \left\{ 1 - \exp \left(- \frac{\Theta_D}{T} \right) \right\} \right]
\end{equation}

定積比熱は格子系のエネルギーを、温度で微分したものです。
\begin{equation}
C_V = \frac{\partial E_D}{\partial T} = 9 N k_B \left( \frac{T}{\Theta_D} \right)^3 \int_0^{\Theta_D / T} \frac{z^4 \exp(z)}{(\exp(z)-1)^2} \mathrm{d} z
\end{equation}

格子振動の大きさ


デバイワラー因子
\begin{equation}
M_D = \frac{6 h^2 T}{M k_B \Theta_D^2} \left( \frac{T}{\Theta_D} \int_0^{\Theta_D / T} \frac{z}{\exp(z)-1} \mathrm{d} z + \frac{\Theta_D}{4T} \right) \left( \frac{\sin \theta}{\lambda} \right)^2
\end{equation}

平均二乗変位
\begin{equation}
u_D^2 = \frac{3 \hbar T}{M k_B \Theta_D^2} \left( \frac{T}{\Theta_D} \int_0^{\Theta_D/T} \frac{z}{\exp(z)-1}\mathrm{d}z + \frac{\Theta_D}{4T} \right)
\end{equation}

原子の振幅が一定以上大きくなると、融解が起こるのではないかという考えから、振幅と融点の関係式が提案されました。当然ながら、かなりラフな推定ですが、少なくとも定性的には、デバイ温度の高い物質の融点が高いという関係が見られるようです。(参考: ザイマン 固体物性論の基礎)

リンデマンの融解公式
\begin{equation}
T_m = \frac{x_m^2}{9 \hbar} M k_B \Theta_D r_s^2
\end{equation}

電気抵抗率


金属の電気伝導は、格子系だけでは決まらないので、電子と格子の相互作用に起因するパラメータも必要となります。

電気抵抗率
\begin{equation}
\rho_D = A \left( \frac{T}{\Theta_D} \right)^5 \int_0^{\Theta_D / T} \frac{z^5}{(\exp(z)-1)(1-\exp(-z))} \mathrm{d} z
\end{equation}

BCS理論による超伝導転移温度
\begin{equation}
T_c = \Theta_D \exp \left( - \frac{1}{N(0)V} \right)
\end{equation}

つまりデバイ模型/デバイ温度とは何なのか?


結局のところ、デバイ温度とかデバイ模型とか言われるものは、いったい何なのでしょうか?
結晶の比熱を計算するための近似がデバイ模型であり、デバイ温度はその中のパラメータである、というのはひとつの答えです。
実際、ねがてぃぶろぐでもScilabで数値積分: 固体の比熱のエントリで比熱の計算をしています。

001_20130522024102.png
Fig.2: 銅の比熱の温度依存性(ΘD = 343.5 K)。青破線がアインシュタインモデル、赤実線がデバイモデルによる計算。


しかしながら、上記のように、比熱以外の色々な物理量の計算式に顔を出します。また、直接数式の中に出てこない場合でも、例えば「デバイ温度よりも充分高温のときだけ成り立つ」みたいな文脈で現れることもあります。あるいは「ダイヤモンドは固いのでデバイ温度が高い」のような記述が見つかるかもしれません。

温度がデバイ温度よりも高いかどうかを議論しているときは、格子振動を古典力学的に扱ってよいのか、量子力学的な効果を考慮しなければならないのかを問題にしている場合が多いです。例えばFig.2の銅の比熱の温度依存性では、低い温度では比熱が急激に変化していますが、高温ではほとんど変化しなくなります。高温での比熱の温度依存性がなくなることは、古典力学的から導かれ、デュロン・プティの法則として知られています。その一方で、低温の急激な温度依存性は、量子力学を考えなければ説明できません。
また、物質の硬さを議論しているときには、直感的に言えば、デバイ温度を原子同士をつなぐ「ばね定数」のようなものだと考えています。

そんなわけで、最初に書いたとおり「デバイ模型とは、結晶のフォノンの分散関係に対する最も簡単な近似のひとつ」で「デバイ温度は、デバイ模型の中で、その物質の個性を表す最も重要なパラメータ」が答えとなるわけですが、その近似が単純であるにもかかわらず、色々な応用が考えられるので、出くわすたびに、それまでもっていた理解とは、ほんの少し違う側面が見えることがあります。

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