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デバイ模型

デバイ模型やデバイ温度といった言葉は、固体物理学の分野でたびたび目にします。
近似自体は、非常に単純なものなのですが、あらゆる物性に顔を出す反面、初歩的な教科書には比熱のことしか書いてなかったりするので、ときどき良く分からなくなったりします。
デバイ模型は、そもそも、フォノンの分散関係を近似的に表すための模型であり、そこから(格子比熱を含む)色々な物性を計算することができるようになります。
今回は、デバイ模型の仮定している近似についてまとめると共に、デバイ温度が現れる物性の計算式を列挙します。

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Fig.1: Quantum ESPRESSOで計算したダイヤモンドのフォノンの分散関係



フォノンの分散関係と物性値


結晶の格子振動(フォノン)にだけに依存する物性値は、フォノンの分散関係が分かればすべて計算できるということになっています。デバイ模型(Debye model)やアインシュタイン模型(Einstein model)は、単純に格子比熱を計算するためだけのモデルだと見做される事もありますが、本来はこの分散関係を近似的にあらわす模型です。したがって、デバイ模型を使えば格子比熱以外の物性も計算することができます。

フォノンの分散関係は、以下の式で表され、一般には複雑な形状をしています。

\begin{equation}
\omega = \omega(\vec{q})
\end{equation}

ここで$\omega$は角振動数で$\vec{q}$は波数ベクトルです。Fig.1に示したのは、Quantum ESPRESSOで計算したダイヤモンドのフォノンの分散関係です。音響フォノンと光学フォノンの両方を持っていること、異方性を持っていることなどが分かります。

デバイ模型の2つの仮定


そこで、デバイ模型では「分散関係をシンプルな形で表す」「異方性をなくす」という二つの方針で簡単な式に置き換えます。

仮定(1) 角振動数$\omega$は波数$q$に比例し、その比例定数を音速$v$とする
\begin{equation}
\omega = v q
\end{equation}

仮定(2) ブリュアンゾーン(BZ)を同じ体積の球で置き換える
\begin{equation}
q_D = \left( \frac{6 \pi^2 N}{\Omega} \right)^{\frac{1}{3}}
\end{equation}
ここで$q_D$はデバイ波数と呼ばれ、体積Ωとその中の原子の数Nのみで表すことができます。

この波数$q$は、$0 \leqq q \leqq q_D$の範囲に限られます。この$q_D$は、体積Ωと原子数Nだけで決まるので、デバイ模型を特徴付けるパラメータは、音速$v$のみということになります。しかしながら、音速$v$はこの用途にはあまり使われず、代わりにデバイ温度$\Theta_D$がよく使われます。音速$v$とデバイ温度$\Theta_D$は、いったんエネルギーの次元で考えた後、以下のように換算できます。
\begin{equation}
k_B \Theta_D = \hbar \omega_D = \hbar v q_D \\
\therefore v = \frac{k_B \Theta_D}{\hbar q_D}
\end{equation}

以降では、デバイ模型のパラメータであるデバイ温度 ΘD が出てくる物性値について列挙します。

熱力学


ヘルムホルツの自由エネルギー(ヘルムホルツエネルギー)は、以下のような式で、エネルギー E の項とエントロピー S の項から表されます。
\begin{equation}
F=E-TS
\end{equation}
エネルギーにせよエントロピーにせよ、色々な原因による項(磁性、配置のエントロピー、電子比熱によるエントロピーなど)がありますが、格子系のエネルギーとエントロピーをデバイ模型を用いて表します。(参考: AkaiKKRで金属の熱物性)

格子系のエネルギー
\begin{equation}
E_D = 3 N k_B T \left( \frac{T}{\Theta_D} \right)^3 \int_0^{\Theta_D / T} \frac{z^3}{\exp(z)-1} \mathrm{d}z + E_0
\end{equation}

ゼロ点エネルギー
\begin{equation}
E_0 = \frac{9}{8} N k_B \Theta_D
\end{equation}

格子系のエントロピー
\begin{equation}
S_D = 3 N k_B \left[ \frac{4}{3} \left( \frac{T}{\Theta_D} \right)^3 \int_0^{\Theta_D / T} \frac{z^3}{\exp(z) - 1} \mathrm{d}z \\ - \ln \left\{ 1 - \exp \left(- \frac{\Theta_D}{T} \right) \right\} \right]
\end{equation}

定積比熱は格子系のエネルギーを、温度で微分したものです。
\begin{equation}
C_V = \frac{\partial E_D}{\partial T} = 9 N k_B \left( \frac{T}{\Theta_D} \right)^3 \int_0^{\Theta_D / T} \frac{z^4 \exp(z)}{(\exp(z)-1)^2} \mathrm{d} z
\end{equation}

格子振動の大きさ


デバイワラー因子
\begin{equation}
M_D = \frac{6 h^2 T}{M k_B \Theta_D^2} \left( \frac{T}{\Theta_D} \int_0^{\Theta_D / T} \frac{z}{\exp(z)-1} \mathrm{d} z + \frac{\Theta_D}{4T} \right) \left( \frac{\sin \theta}{\lambda} \right)^2
\end{equation}

平均二乗変位
\begin{equation}
u_D^2 = \frac{3 \hbar T}{M k_B \Theta_D^2} \left( \frac{T}{\Theta_D} \int_0^{\Theta_D/T} \frac{z}{\exp(z)-1}\mathrm{d}z + \frac{\Theta_D}{4T} \right)
\end{equation}

原子の振幅が一定以上大きくなると、融解が起こるのではないかという考えから、振幅と融点の関係式が提案されました。当然ながら、かなりラフな推定ですが、少なくとも定性的には、デバイ温度の高い物質の融点が高いという関係が見られるようです。(参考: ザイマン 固体物性論の基礎)

リンデマンの融解公式
\begin{equation}
T_m = \frac{x_m^2}{9 \hbar} M k_B \Theta_D r_s^2
\end{equation}

電気抵抗率


金属の電気伝導は、格子系だけでは決まらないので、電子と格子の相互作用に起因するパラメータも必要となります。

電気抵抗率
\begin{equation}
\rho_D = A \left( \frac{T}{\Theta_D} \right)^5 \int_0^{\Theta_D / T} \frac{z^5}{(\exp(z)-1)(1-\exp(-z))} \mathrm{d} z
\end{equation}

BCS理論による超伝導転移温度
\begin{equation}
T_c = \Theta_D \exp \left( - \frac{1}{N(0)V} \right)
\end{equation}

つまりデバイ模型/デバイ温度とは何なのか?


結局のところ、デバイ温度とかデバイ模型とか言われるものは、いったい何なのでしょうか?
結晶の比熱を計算するための近似がデバイ模型であり、デバイ温度はその中のパラメータである、というのはひとつの答えです。
実際、ねがてぃぶろぐでもScilabで数値積分: 固体の比熱のエントリで比熱の計算をしています。

001_20130522024102.png
Fig.2: 銅の比熱の温度依存性(ΘD = 343.5 K)。青破線がアインシュタインモデル、赤実線がデバイモデルによる計算。


しかしながら、上記のように、比熱以外の色々な物理量の計算式に顔を出します。また、直接数式の中に出てこない場合でも、例えば「デバイ温度よりも充分高温のときだけ成り立つ」みたいな文脈で現れることもあります。あるいは「ダイヤモンドは固いのでデバイ温度が高い」のような記述が見つかるかもしれません。

温度がデバイ温度よりも高いかどうかを議論しているときは、格子振動を古典力学的に扱ってよいのか、量子力学的な効果を考慮しなければならないのかを問題にしている場合が多いです。例えばFig.2の銅の比熱の温度依存性では、低い温度では比熱が急激に変化していますが、高温ではほとんど変化しなくなります。高温での比熱の温度依存性がなくなることは、古典力学的から導かれ、デュロン・プティの法則として知られています。その一方で、低温の急激な温度依存性は、量子力学を考えなければ説明できません。
また、物質の硬さを議論しているときには、直感的に言えば、デバイ温度を原子同士をつなぐ「ばね定数」のようなものだと考えています。

そんなわけで、最初に書いたとおり「デバイ模型とは、結晶のフォノンの分散関係に対する最も簡単な近似のひとつ」で「デバイ温度は、デバイ模型の中で、その物質の個性を表す最も重要なパラメータ」が答えとなるわけですが、その近似が単純であるにもかかわらず、色々な応用が考えられるので、出くわすたびに、それまでもっていた理解とは、ほんの少し違う側面が見えることがあります。

関連エントリ




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参考文献/使用機器




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