LTspiceでスイッチト・キャパシタの交流解析

LTspiceのAC解析は、スイッチングを含む回路の周波数特性をシミュレーションすることができません。そこで、スイッチング回路の評価に適した過渡解析を反復させることにより、PSoCのスイッチト・キャパシタフィルタのゲイン線図を描いてみました。

その結果、フィルタ設計ウイザードのゲイン線図とよく一致することが確認できました。このことからも、LTspiceでスイッチト・キャパシタのLTspiceモデルが現実の回路をよく再現していることを確認できました。

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連続時間回路に対するAC解析の限界


LTspiceには、回路の交流特性のシミュレーションを行うための小信号交流解析(.acコマンド)があります。このコマンドを使えば、増幅回路やフィルタの周波数に対するゲインや位相の特性を調べることができます。(例:超音波距離計 第三回:受信回路の交流解析,LTspiceでオールパス・フィルタ)

しかしながら、このAC解析は連続時間的な回路の周波数特性を調べるためのものであるため、スイッチングを含む回路の周波数特性を調べることができません。
スイッチングを含む回路にも、周波数特性が重要になってくるものがたくさんあります。例えば、A/Dコンバータのサンプル&ホールド回路やスイッチト・キャパシタ・フィルタなどです。ADCの並列動作 その1では、スイッチングの効果を考慮せずにサンプリングスイッチのON抵抗とホールドコンデンサによって構成されるRCローパスフィルタの周波数特性のみをシミュレーションしました。

今回は、ゲインの周波数特性がフィルタ設計ウイザードに書かれているPSoCのBPF2に関して、シミュレーションと理論値との比較を行います。

過渡解析


フィルタ自体は、LTspiceでスイッチト・キャパシタで作ったモデルに対して、中心周波数が1kHzとなるように、サンプリング周波数を50kHzとしたものにしました。

解析の基本となる過渡解析のシミュレーション結果をfig.1-2に示します。


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fig.1: スイッチト・キャパシタ・バンドパスフィルタのスケマティック

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fig.2: 入力電圧(赤) 出力電圧(緑)


fig.2のグラフは、出力電圧が定常状態に入ったあとのものです。
入力電圧の周波数を100Hz,10kHzと変更してシミュレーションしたところ、最初の数msは出力が安定しないようです。


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fig.3: 入力周波数100Hzの出力波形

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fig.4: 入力周波数10kHzの出力波形


このため、交流特性は10ms以降の1周期分のデータに対して処理を適用することにより議論します。

スイッチング回路のAC解析


周波数-ゲイン特性図(ゲイン線図)を書くために、.measと.stepを組み合わせた過渡解析を行います。
ゲインは(出力電圧)/(入力電圧)なので、それぞれの1周期分の実効値を.measで計算します。


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fig.5: スケマティック

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fig.6: 横軸が時間,縦軸が入力電圧波形(赤)と出力電圧波形(緑)

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fig.7: 横軸が周波数,縦軸がゲインで、単位はdB


fig.7がもとめるゲイン線図です。

フィルタ設計ウイザードとの比較


フィルタ設計ウイザードによって得られたゲイン線図をfig.8に示します。
青の破線で書かれたのが理想特性(Nominal)で、緑の実線で書かれたのが実際の回路で予測される特性(Expected)です。


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fig.8: フィルタ設計ウイザードのゲイン線図


これに対して、LTspiceのシミュレーションから得られたfig.7のゲイン線図を画像として重ねたものをfig.9に示します。


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fig.9: フィルタ設計ウイザードとLTspiceのゲイン線図の比較


赤のラインで示したLTspiceのシミュレーション結果は、フィルタ設計ウイザードのゲイン線図と非常によく一致しました。

ただし、よりよく一致したのは残念ながら、緑のExpectedではなく、青のNominalでした。
スイッチト・キャパシタのモデル化の際に、OPアンプやスイッチ、コンデンサ等すべてを理想的な部品としたため、ある意味当然と言えば当然の結果です。
この差を埋めるための要素としては、OPアンプの周波数特性、スイッチのON抵抗、コンデンサの漏れ電流など候補はいくつか考えられそうです。

関連エントリ




付録


このエントリで使用したLTspiceのシミュレーション用ファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。


参考文献




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tag: LTspice PSoC スイッチト・キャパシタ スイッチング回路 

LTspiceでスイッチト・キャパシタ

PSoCは、そのプログラマブルなアナログ回路機能の大部分をスイッチト・キャパシタの技術により実現しています。スイッチト・キャパシタ回路は、単純な連続時間のアナログ回路と異なり、スイッチングにともなう周波数成分を含みます。
このスイッチングノイズをLTspiceによりシミュレーション的に評価するために、スイッチトキャパシタ・フィルタのモデル化を行いました。

このモデルに基づくLTspiceの解析は、実測データをよく再現し、また、解析自体も高速に完了することを確認しました。PSoCのスイッチト・キャパシタを含む回路システム全体のシミュレーションも十分現実的だと思われます。

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PSoCのスイッチト・キャパシタフィルタ


PSoCのアナログブロックは、連続時間ブロック(CT)とスイッチト・キャパシタブロック(SC)で構成されています。スイッチト・キャパシタは、コンデンサをアナログスイッチでスイッチングすることにより、通常の連続時間的な回路では難しい処理を行うことができます。フィルタはその一例で、スイッチング周波数を変更することにより、キャパシタンスや抵抗値などの回路定数を変更することなくカットオフ周波数を変更することができます。


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fig.1: BPF2のブロック図


PSoCでLED正弦波駆動では、矩形波をスイッチト・キャパシタで構成したバンドパスフィルタに通すことにより正弦波を得るアプリケーションを紹介しました。
その実測波形を見ると、正弦波が階段状のノイズを含んでいることが確認できました。


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fig.2: 出力電圧波形(赤)は階段状のノイズを含んでいる


BPF2やLPF2といったアクティブフィルタのユーザーモジュールは、そのフィルタ特性の設計のために、フィルタ設計ウイザードが用意されています。
これを用いれば、簡単に目標の特性を満たすフィルタを設計できます。


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fig.3: BPF2のフィルタ設計ウイザード


しかしながら、前述の階段状のノイズがどのように出力波形に現れるかを、フィルタ設計ウイザードから読み取ることは困難です。
そこで今回は、LTspiceを用いて、PSoCのスイッチト・キャパシタフィルタのシミュレーションを行い、実際の出力波形を設計段階から評価できるようにすることを目標とします。

スイッチト・キャパシタのSPICEモデル


今回は、BPF2ユーザーモジュールを、fig.2のとおり、PSoCでLED正弦波駆動PSoCの正弦波出力をFFTで利用した構成とします。
スイッチト・キャパシタフィルタは、fig.1のブロック図のとおり、以下の要素で構成されています。

  • コンデンサ
  • アナログスイッチ
  • OPアンプ


コンデンサに関して


PSoCのスイッチト・キャパシタは、1ユニット80fF(typ)のコンデンサを複数ユニット組み合わせて任意のキャパシタンスを得る構成になっています。

fig.2から、table.1に示すように指定しました。

Parts No.UnitCapacitance
C1180fF
C24320fF
C34320fF
C48640fF
CA322560fF
CB322560fF
table.1: BPF2のキャパシタンス


アナログスイッチに関して


アナログスイッチ自体のパラメータであるオン抵抗/オフ抵抗は、詳細が分からなかったので、LTspice標準のものとしました。

スイッチトキャパシタに存在するアナログスイッチがONになるタイミングは、2種類存在します。Φ1のみがONとなるacquisitionフェーズと、Φ2のみがONとなるtransferフェーズです。トランジスタ技術 2009年 01月号のP146には以下のようにあります。

ASC/ASDで使われるクロックは、モジュール外部から与えられるクロックを1/4にして利用しています。詳細は書かれていないようですが、Φ1→(両方OFF)→Φ2→(両方OFF)→Φ1…というぐあいに、Φ1とΦ2のいずれかがONになる期間と両方がOFFの期間が交互になっているのでしょう。


と言うことなので、LTspiceのシミュレーションでもΦ1,Φ2それぞれがONとなるフェーズのほかに両方がOFFとなるフェーズを挟むこととします。

OPアンプに関して


OPアンプに関しては、さしあたりLTspice標準のUniversal Opampを利用しました。

以上でスイッチト・キャパシタフィルタのシミュレーションに必要なモデル化ができました。

過渡解析


fig.4にLTspiceシミュレーションのスケマティックを、fig.5に過渡解析の結果を示します。


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fig.4: 過渡解析のスケマティック

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fig.5: 過渡解析のグラフ


赤で示した波形が入力の矩形波で、緑で示した波形がBPF2の出力です。電源投入直後から正弦波が成長していく過程は、現実の回路の実測波形でも、(本ブログで紹介したことはありませんが、)こんな感じです。

フーリエ解析


続けて、PSoCの正弦波出力をFFTの実測波形と比較するために、フーリエ解析を行います。


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fig.6: フーリエ解析用のスケマティック


フーリエ解析では、PDS5022での実測と同じ条件での解析を行うため、解析点を4096点としました。


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fig.7: シミュレーション結果の時間領域表示

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fig.8: 実測波形の時間領域表示


時間領域表示(通常のオシロスコープでの表示)では、階段状のノイズも非常によく似た形をしています。

以下に、シミュレーションと実測データのFFT表示を示します。


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fig.9: シミュレーション結果の周波数領域表示

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fig.10: 実測波形の周波数領域表示


全体的にシミュレーションの方がキレイなスペクトルとなっていますが、主要なピークの位置は共通しています。

結論


1Hz前後の低周波では、十分と思われる正確な結果が得られました。フィルタ設計ウイザードとあわせて利用すれば、設計段階から完成品の性能の予測精度が上がると思います。

ただし、より高周波のシミュレーションでも十分な精度が得られるかは、今後検証していく必要があるかもしれません。特に今回はLTspice標準のOPアンプモデルを利用したので、PSoC内部のOPアンプとの周波数特性の差が効いてくる可能性はあります。

スイッチング回路のシミュレーションなので、計算にはかなりの時間がかかるであろうと想像していましたが、現実には非常に高速に解析が完了しました。LTspiceは回路規模に制限が無いので、PSoCのスイッチト・キャパシタを含む回路システム全体をシミュレーションすることも十分現実的であると考えられます。

SIMetrix/SIMPLIS


アナログ信号の離散時間処理というか、スイッチング動作を含むアナログ回路は、ぜひシミュレーションしたい回路である反面、SPICEが苦手としている領域でもあります。
こういった回路の解析には、非SPICE系の特化したシミュレータを使うほうがよいのかもしれません。

そう考えて、実を言うと電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISスペシャルパック―複雑なトランジスタ回路やスイッチング電源も高速解析 (ツール活用シリーズ)を購入していたのですが、思いのほかLTspiceの解析速度が速くて出番がありませんでした。

とは言うものの、この本の内容は凄く面白く、参考になりました。
私のブログでは、A/Dコンバータのサンプルホールド回路に関するシミュレーションを題材としたエントリをいくつか書きましたが、これらや今回のスイッチト・キャパシタのシミュレーションに興味がある方にはお奨めできます。

関連エントリ




参考URL




付録


このエントリで使用したLTspiceのシミュレーション用ファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。


参考文献




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tag: LTspice PSoC PDS5022 FFT スイッチト・キャパシタ スイッチング回路 

PSoCの正弦波出力をFFT

PSoCの正弦波出力波形に対してFFTをおこない、階段状のノイズの周波数スペクトルを求めました。

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PSoCでLED正弦波駆動


PSoCは、デジタルブロックで生成した方形波をアナログブロックで構成されたスイッチトキャパシタバンドパスフィルタを通すことにより、外付け回路無しで正弦波を生成することができます。参考:PSoCでLED正弦波駆動

しかしながら、スイッチトキャパシタフィルタを通したフィルタは細かく見ると階段状になっているのが分かります。PSoC/GPIOのしきい値とヒステリシスPSoC/GPIOのしきい値と電源電圧では、この階段状のノイズを取るために、抵抗とコンデンサで構成したローパスフィルタを使いました。


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fig.1: PSoC正弦波出力波形(赤)とRCローパスフィルタを通したもの(緑)


ExcelでFFT


PDS5022SとExcelで高速フーリエ変換では、方形波の測定波形の周波数スペクトルをExcelを用いた高速フーリエ変換(FFT)を用いて行いました。

今回は同様に、PSoCの正弦波出力に対してFFTを行い、周波数スペクトルを求めました。


002_20090924234832.png
fig.2: 出力波形のFFT(赤)とLPF後のFFT(緑)


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