LTspiceで直流解析(DC解析)
今回取り上げる直流解析(DC解析)は、電圧や電流をゆっくり変化させたときの回路の挙動を調べるものです。
直感的に言えば、横軸に電圧や電流をとったグラフを書くのが直流解析だと考えればだいたいあってます。現実の回路で言うなら、DC電源とデジタルマルチメータを使う類の計測です。
具体的には、
などのシミュレーションができます。
このエントリの前半は、LTspiceを始めたばかりの初心者の方向けに、直流解析とはどういったものかを解説します。
後半では、すでにある程度LTspiceの直流解析を使ったことがある経験者の方向けに、単純な直流解析ではアプローチできない回路へのヒントとなる(かもしれない)エントリの紹介をしていきます。
基本的な分圧回路のシミュレーション
最初に、回路シミュレータを使うまでも無いような分圧回路についてのシミュレーションを行います。
fig.1の回路の入力に電圧をかけると、二分の一に分圧された電圧が出力されることが予想され、シミュレーションでも確かにそのようになります。(fig.2)
LTspiceでのシミュレーションが初めての方は、まずLTspiceクイック・スタートを実際にやってみてLTspiceの使い方に慣れてください。今回の例では、解析の種類の選択・設定の部分でEdit Simulation CommandウインドウでDC seepを選択します。fig.3は、変化させる電圧源としてV1を指定、電圧を0Vから1Vまで1mVずつ変化させていく設定とした場合です。
『ゆっくり変化させる』とは?
ここまででは、直流解析は電流や電圧をゆっくり変化させる事だと書いてきました。
ゆっくり変化させるというのは、ざっくりと言ってしまうと
- コンデンサは開放
- コイルは短絡
コンデンサには、直流は流れません。また、コイルは直流に対してはただの導線です。
実際にfig.4の様に、分圧回路の出力に10μFのコンデンサを接続した回路のシミュレーションをしてみると、その結果は、コンデンサを接続していないときの結果(fig.2)とまったく同じになることがわかります。
一方で、この回路を過渡解析してみると、コンデンサの影響が確認できます。
直流解析の結果のように、出力電圧が入力電圧だけで決まるなら出力電圧V(out)は、緑の線で示したようなV(in)/2となるはずですが、シミュレーション結果は、赤の線で示したようになまった波形になります。
従って、過渡解析ではコイル・コンデンサは回路図に書く意味が無い事がわかります。
逆に、コイル・コンデンサの効果をシミュレーションする場合は、直流解析は使えないと言うこともできます。この場合は、過渡解析(tran解析)や小信号交流解析(AC解析)を利用します。
シミュレーションの実例
直流解析の応用例として、ねがてぃぶろぐで以前行ったシミュレーションをいくつか紹介します。
半導体の直流特性
PDS5022Sでカーブトレーサや電気用語は難しい(オームの法則)では、汎用シリコンダイオードの電圧-電流特性のシミュレーションをしました。
以下は、電気用語は難しい(オームの法則)のものです。
順電圧(横軸)に応じて、順電流やダイオードの抵抗値が非線形に変化していることが読み取れます。(参考:1N4148のデータシート(PDF))
アナログICの直流特性
PICの電源電圧低下でLED点灯、しきい値付近で線形増幅器になるコンパレータやOPアンプの同相入力電圧範囲とバイアスでは、コンパレータやOPアンプの直流特性についてシミュレーションをしました。
以下は、PICの電源電圧低下でLED点灯で行ったシミュレーションで、電源電圧が低下するとコンパレータの出力がHとなる回路です。
fig.10の上のパネルがコンパレータの出力で、電源電圧が2.2Vを下回ると出力がHになるコンパレータ動作をしています。
直流解析(DC解析)できない回路
ここからは、一見すると直流解析でシミュレーションできそうな回路でありながら、直流解析ではうまくいかない回路を一工夫してシミュレーションする方法を紹介します。そのエッセンスは、過渡解析を使うことです。
ヒステリシスコンパレータ
直流解析を利用しない直流解析のひとつ目の例が、時間的に直前の状態を参照するヒステリシスコンパレータ(シュミットトリガ回路)です。
解析の設定のときにDC sweepのStart ValueとStop Valueの値を逆にすれば、2つのしきい値の値を別々に調べることはできます。しかしながら、2つのしきい値を同時に一つのグラフにプロットすることはできません。
過渡解析においても、横軸を任意のノード(回路図上の好きな場所)の電圧を横軸にとったグラフを書くことができます。(LTspiceのグラフの横軸を変更する)
これを利用して、ひとつのグラフに2つのしきい値を同時に描くことを考えます。
まずfig.11の様に、解析したいヒステリシスコンパレータのスケマティックを作成します。このとき、変化させる入力電圧の部分にゆっくり電圧が上昇して、その後、ゆっくり電圧が下降するような信号源を接続します。今回の例では電圧源をPULSEとして使用して、0Vから1秒かけて5Vまで上昇し、その後、1秒かけて0Vまで戻る信号源としました。
この過渡解析の結果がfig.12です。この段階では、横軸は時間です。
この横軸の時間の部分をクリックすると、fig.13の様なウインドウが立ち上がります。
立ち上がったウインドウのQuantity Plottedの部分にかかれたtimeを、横軸にとりたいもの、今回はV(in)に書き換えると(fig.14)、希望したヒステリシス曲線を表示することができます。(fig.15)
なんとなく難しいことをやったような印象があるかもしれませんが、実のところ、ゆっくりと変化させるを過渡解析で行っただけです。従って注意点は、その回路にとって充分ゆっくり電圧を変化させることです。
ねがてぃぶろぐでは、シュミットトリガ回路に関するエントリがたくさんあります。
- バッファとヒステリシス その1
- バッファとヒステリシス その2
- LTspiceでシュミットトリガ回路
- LTspiceで7414
- LTspiceでCMOSシュミットトリガ回路
- LTspiceで電圧制御抵抗(VCR)
スイッチングを含む回路
スイッチングを含む回路でも直流解析のようなことを行いたい場合があります。
たとえばスイッチングレギュレータのロードレギュレーション等です。
ねがてぃぶろぐでは、チャージポンプ型電源のロードレギュレーションや効率(LTspiceでチャージポンプ負電源)、チョッパアンプの直流特性(汎用OPアンプをチョッピングで高精度化)のシミュレーションを行いました。
これらの場合も、重要な点は過渡解析を使うことですが、シュミットトリガ回路の場合ほど単純ではなく、さらに一捻りとして.measコマンドと.stepコマンドを利用します。
以下に示すのは、LTspiceでチャージポンプ負電源にて行った出力電圧-電力変換効率のシミュレーション結果です。
.measコマンドと.stepコマンドの組み合わせはLTspiceで.meas(実効値,積分値など)にて解説しています。
この組み合わせのシミュレーションは、詰まるところ、スイッチングを含む回路の過渡解析を、条件を変えながら複数回行っているというものです。
スイッチング回路のシミュレーションは、時間がかかります。それをさらに複数回繰り返すということは、それ相応の時間がかかるということがこの方法の欠点です。したがって、ステップの刻み幅などはよく考える必要があります。
関連エントリ
- LTspiceクイック・スタート
- LTspiceの使い方
- PDS5022Sでカーブトレーサ
- 電気用語は難しい(オームの法則)
- 単電源OPアンプのGND付近での非線形性とバイアス
- PICの電源電圧低下でLED点灯
- OPアンプの同相入力電圧範囲とバイアス
- しきい値付近で線形増幅器になるコンパレータ
- LTspiceのグラフの横軸を変更する
- バッファとヒステリシス その1
- バッファとヒステリシス その2
- LTspiceでシュミットトリガ回路
- LTspiceで7414
- LTspiceでCMOSシュミットトリガ回路
- LTspiceでチャージポンプ負電源
- 汎用OPアンプをチョッピングで高精度化
- LTspiceで.meas(実効値,積分値など)
参考URL
付録
このエントリで使用したLTspiceのシミュレーション用ファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)
参考文献/使用機器
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