PWscfでZnOの構造緩和

PWscf(Quantum ESPRESSO)を用いてウルツ鉱構造のZnOの高圧力下での構造最適化を行いました。

003_201807261443018d6.png

Fig.1: ウルツ鉱構造ZnOの格子定数の圧力変化



入力ファイルのテンプレート


まずPWscfの入力作成補助で紹介したxlt2pw.pyを利用して、ZnOの入力ファイルの雛形を作ります。入力の元になるxtlファイルは、CIFからVESTAを通じて出力します。CIFはDFT計算用データベース MatNaviで紹介した無機材料データベース(AtomWork)などからダウンロードします。

xtl2pw.py ZnO.xtl vc-relax 1
cp ZnO.in ZnO.relax.in


擬ポテンシャルとカットオフエネルギー


PWscfの擬ポテンシャルを参考に入力ファイルを編集します。
擬ポテンシャルの種類には PAW ポテンシャルを選びました。

ATOMIC_SPECIES
Zn 65.38 Zn.pbe-dnl-kjpaw_psl.1.0.0.UPF
O 15.999 O.pbe-n-kjpaw_psl.0.1.UPF


カットオフエネルギーは、擬ポテンシャルファイルに書かれている推奨値を参考にします。波動関数のカットオフの推奨値は酸素の方が大きく、電荷密度の推奨値は亜鉛の方が大きいことに注意が必要です。それぞれ大きいほうの1.5倍ぐらいを選びました。

    ecutwfc = 75.0 ,
ecutrho = 420.0 ,


圧力


圧力下の構造最適化を行うこともできます。その場合は press に圧力を設定します。単位は kbar です(1 GPa = 10 kbar)。

原子位置の制約


xtl2pw.py の最後の入力パラメータは、原子位置の制約の有無に関連しています。
0 を入力すると全ての原子について位置の最適化を行います。
1 を入力すると結晶学的に動かなさそうな原子を固定して計算します。

下記は xtl2pw.py の最後のパラメータに 1 をしていた場合の入力ファイルです。原子の座標の後ろに更に3つの数字が続いていますが、これが原子を動かすか否かのフラグになっていて 0 なら固定、1 なら動かせることを意味しています。今回の例では、酸素原子のz方向だけ原子を最適化するようになっていることが分かります。

ATOMIC_POSITIONS crystal
Zn 0.333333 0.666667 0.000000 0 0 0
Zn 0.666667 0.333333 0.500000 0 0 0
O 0.333333 0.666667 0.389010 0 0 1
O 0.666667 0.333333 0.889010 0 0 1


入力ファイル


結局、入力ファイルは以下のようにしました。

&control
calculation='vc-relax' ,
restart_mode='from_scratch' ,
prefix='ZnO' ,
outdir = './ZnO/' ,
wfcdir = './ZnO/' ,
pseudo_dir = './' ,
disk_io='default' ,
forc_conv_thr= 0.001 ,
verbosity = 'default' ,
nstep = 100 ,
/
&system
ibrav= 4 ,
celldm(1) = 6.14709011 ,
celldm(3) = 1.60158627686 ,
nat = 4 ,
ntyp = 2 ,
ecutwfc = 75.0 ,
ecutrho = 420.0 ,
/
&electrons
electron_maxstep = 100 ,
mixing_beta = 0.7 ,
! use smaller conv_thr for better results ,
conv_thr = 1.0d-12 ,
/
&ions
ion_dynamics='bfgs' ,
/
&CELL
cell_dynamics = 'bfgs' ,
press = 0.001,
press_conv_thr = 0.05 ,
! cell_dofree = 'xyz' ,
/
ATOMIC_SPECIES
Zn 65.38 Zn.pbe-dnl-kjpaw_psl.1.0.0.UPF
O 15.999 O.pbe-n-kjpaw_psl.0.1.UPF
ATOMIC_POSITIONS crystal
Zn 0.333333 0.666667 0.000000 0 0 0
Zn 0.666667 0.333333 0.500000 0 0 0
O 0.333333 0.666667 0.389010 0 0 1
O 0.666667 0.333333 0.889010 0 0 1
K_POINTS automatic
6 6 4 0 0 0


結果


圧力を変化させながら格子定数がどのように変化するかを調べた結果が Fig.1 です。40 GPaまでは正常に圧縮されていっていますが 50 GPa で異常が見られます。
pwout2xtl.pyをもちいて出力したxtlファイルをVESTAで描画してみると、酸素原子のz位置が大きく動いて、結晶全体がc軸方向につぶれたことが良く分かります。

001_20180726144258855.jpg
002_20180726144259aba.jpg

Fig.2-3: ZnOの結晶構造の変化


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DFT計算用データベース MatNavi

AkaiKKR(machikaneyama)ecalj, Quantum ESPRESSO(PWscf)といった第一原理計算パッケージを用いるには、色々なデータベースがあると便利です。

物質・材料研究機構(NIMS)が、この目的に適したデータベースを公開しています。
利用にはユーザー登録が必要ですが無料です。ユーザー登録自体はとても簡単です。今回は、雰囲気を紹介するためにいくつかのデータを見てみます。


状態図


実際に計算する物質が組成や温度によってどのような相を撮るのかを確認しておくことは重要です。計算状態図データベース(CPDDB)には、熱力学パラメータから計算された状態図が収録されています。例えば、以下に示すのは Fe-Cr の二元系状態図です。

crfe_lee.png
Fig.1: 計算状態図データベース(CPDDB)で見ることが可能な状態図の一例、 Fe-Cr 二元系状態図。


結晶構造


実際の第一原理計算には、格子定数や原子位置などの詳細な結晶構造データが必要です。

無機材料データベース(AtomWork)では、これらのパラメータやX線回折パターンを表示することが出来ます。

2018y06m10d_005628909.jpg
Fig.2: 無機材料データベース(AtomWork)で見ることの出来る結晶構造の一例、MgAl2O4の結晶構造。ただし、実際にはCIF形式のファイルをダウンロードしてVESTAなどで描画するほうが便利なことが多い。


更に結晶構造を記述するCIF形式のファイルをダウンロードすることも可能です。色々な第一原理計算パッケージがCIFから入力ファイルを作成する機能を持っています。たとえば本ブログでもCIFからecalj入力の作成, CIFからecalj入力の作成 その2です。

またCIFから直接入力ファイルを作る機能が無いDFTパッケージであってもVESTAなどを経由して比較的に簡単に入力ファイルを作成することが出来る場合も多いです。例えばVESTAでAkaiKKRのための基本並進ベクトルPWscfの入力作成補助などです。

バンド構造


第一原理計算を実行する際、既知のバンド構造の計算結果と比較して、答え合わせを行っておくことはとても重要です。電子構造計算データベース (CompES-X)を利用してバンド構造や状態密度などを確認することが出来ます。

2018y06m09d_234430344.png
Fig.3: 電子構造計算データベース (CompES-X)で確認できるバンド構造の一例、PbTeのバンド構造。


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PWscfの入力作成補助

Quantum ESPRESSO(PWscf)の入力ファイル作成支援に使えるソフトウエアとして、以下の3つがあげられます。


cif2cell


cif2cellCIFからecalj入力の作成
でCIFファイルからecaljの入力ファイルを作成するために利用しました。インストール方法はそちらのエントリに書いてあります。

cif2cellがインストールしてあれば、格子定数や原子位置が記入された入力ファイルの雛形を作成することが出来ます。
フォーマットは以下の通りです。
cif2cell -p プログラム -f CIFファイル -o PWscf入力ファイルの雛形


例えばシリコンのCIFファイル Si.cif の場合は、以下のようにします。

cif2cell -p pwscf -f Si.cif -o Si.in


他にも cif2cell -h とタイプすることによってヘルプを表示することが出来ます。

とはいえ、擬ポテンシャルの設定などの自明でないパラメータは一切出力されないため、追加の編集が必要になります。私は、追加の編集をPWguiで行いたいと考えたのですが、非自明なパラメータが一切出力されないため、そのまま PWgui で開くことが出来ないようです。

xtl2pw.py


他の入力支援用のPythonスクリプトがQuantum-ESPRESSOとVestaの連携QuantumESPRESSO_空間群入力で公開されています。

ダウンロードした後、適当にPATHの通ったディレクトリへ置いて実行権限を付けます。

wget http://www.misasa.okayama-u.ac.jp/~masami/xtl2pw.py
mv xtl2pw.py ~/bin/
chmod +x ~/bin/xtl2pw.py


wget http://www.misasa.okayama-u.ac.jp/~masami/pwout2xtl.py
mv pwout2xtl.py ~/bin/
chmod +x ~/bin/pwout2xtl.py


wget http://www.misasa.okayama-u.ac.jp/~masami/vesta2pw.py
mv vesta2pw.py ~/bin/
chmod +x ~/bin/vesta2pw.py


xtl2pw.py は cif2cell と異なり、色々なパラメータをとりあえず埋めてくれるため、直接 PWgui で開くことが出来ます。ただし変換するのは cif ファイルからではなく xtl ファイルからなので、 VESTA で xtl ファイルをあらかじめ出力しておく必要があります。
具体的には、以下の手順になると思います(シリコンの例)。

  1. VESTA で cif ファイルを xtl ファイルへ変換する。
    File → Export data → Fractional Coordinate (*.xtl) のファイル形式で保存
  2. xtl2pw.py Si.xtl scf 1
    2つ目の引数は scf, relax, vc-relax が選べる
    3つ目の引数は原子位置の制約
     0:制約を点けない
     1:制約をつける
  3. 出力された入力ファイル Si.in をpwgui で編集


Ubuntu への PWgui のインストール


PWguiのページから Self-contained standalone executables つまりコンパイル済みのバイナリをダウンロードします。
そのまえに iwidgets4 をインストールしておく必要があるかもしれません。

sudo apt-get update
sudo apt-get install iwidgets4
wget http://www-k3.ijs.si/kokalj/pwgui/download/pwgui-6.1-linux-x86_64.tgz
tar xzvf pwgui-6.1-linux-x86_64.tgz


必要に応じて pwgui を PATH に追加します。

Windows への PWgui のインストール


Linuxサーバー上で動作する PWgui の GUI を転送して Windows クライアントで動作させるのは重いので、Windows 上で PWgui が動作するとありがたいのですが、ネットで探してみても最新版の PWgui に関しては失敗報告しか見かけません。古いバージョンの2.1.3ならWindows版がPWgui の旧バージョンのダウンロードページから入手できますが、最新版は無いようです。

恐ろしく回りくどい方法ですが、現状では VirtualBox 上で Ubuntu を動かして、そこで PWgui を動かすのが一番マシかもしれません。

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tag: Quantum_ESPRESSO PWscf VESTA PWgui cif2cell 

PWscfの擬ポテンシャル

AkaiKKR(machikaneyama)ecaljが全電子法を採用しているのに対して、Quantum ESPRESSO(PWscf)は擬ポテンシャル法を採用しています。そのためバンド計算を行うためには、入力ファイルとは別に擬ポテンシャルファイルを用意する必要があります。さらにカットオフエネルギーというパラメータを設定しなければいけません。今回のエントリでは、PWscfの擬ポテンシャルファイルに関する基礎知識について書きます。


同じ元素に対しても擬ポテンシャルファイルには色々な種類があるようです。

交換相関汎関数


AkaiKKRやecaljの場合と同様に、交換相関汎関数にどのタイプを使うかを選択できます。計算結果は、どの汎関数を利用するかによって変わってきます(参考: AkaiKKRでLDAとGGA その1, その2)。
どれを使うかのが一番よいのかは、ケースバイケースなのでしょう。とりあえず PBE から試すのが最近の流行なのでしょうか。

擬ポテンシャルファイルの種類


擬ポテンシャルファイルには、以下の3種類の分類があるようです。

  • ノルム保存型
  • ウルトラソフト
  • PAW(Projector Augmented-Wave)


それぞれに特徴があるので、目的によってどのタイプを使うのかを決めます。ただし擬ポテンシャルの種類によって選択できる元素の種類が限定されます。擬ポテンシャルファイルを自作することも可能らしいですが、そうでなければ計算したい化学組成についてどのタイプの擬ポテンシャルが使えるのかはよく確認しておく必要がありそうです。元素ごとに異なるタイプの擬ポテンシャルファイルを混在させることも可能ですが、出来れば避けたほうが良いだろうと思います。

PAWポテンシャルは、おそらく3つの中で最も新しい方法で、計算の高速さと正確さの両方を同時にあげることが出来るらしいです。ただし新しい手法なので(?)選べる元素の種類は少なそう(?)です。

ノルム保存型は3つの中ではおそらく最も古く、そのため選べる元素の種類も多そうです。

ウルトラソフト擬ポテンシャルは、ノルム保存型よりもカットオフエネルギーを小さく出来る、したがって計算速度を上げることが出来るメリットがあるようです。

カットオフエネルギー


カットオフエネルギーは、計算精度に関するパラメーターです。大きくするほど計算結果が正確になりますが、計算時間が掛かるようになります。したがって、必要充分な値を設定する必要があります。この値は擬ポテンシャルファイルの先頭部分に書いてあることが多いようです。以下は Siの擬ポテンシャルファイル の冒頭部分です。

Generated using "atomic" code by A. Dal Corso  v.5.0.2 svn rev. 9415
Author: ADC
Generation date: 11Sep2012
Pseudopotential type: PAW
Element: Si
Functional: SLA PW PBX PBC

Suggested minimum cutoff for wavefunctions: 38. Ry
Suggested minimum cutoff for charge density: 151. Ry
The Pseudo was generated with a Scalar-Relativistic Calculation
L component and cutoff radius for Local Potential: 2 2.0000


波動関数のカットオフエネルギーの最小値は 38 Ry で、電荷密度のカットオフエネルギーの最小値は 151 Ry であると書かれています。利用する全ての擬ポテンシャルファイルの中で、一番大きな値の 1.5 倍程度が目安な様です。


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tag: Quantum_ESPRESSO PWscf 擬ポテンシャル 

PWscfのインストール

Quantum ESPRESSO(PWscf)は第一原理バンド計算パッケージです。AkaiKKR(machikaneyama)ecaljが全電子法を用いているのに対して、Quantum ESPRESSOは擬ポテンシャル法を用いています。擬ポテンシャル法は、計算速度が速いことが特徴です。計算が速いということは、全電子法では時間が掛かりすぎて現実的でないような計算、具体的には構造緩和や分子動力学が可能だということです。したがって Quantum ESPRESSO で緩和させた構造を入力ファイルとして ecalj のQSGW計算を行うといった連携も考えられます。

今回は ubuntu 16.04 に Quantum ESPRESSO をインストールしてみます。とはいえ Quantum ESPRESSO は極めてメジャーなソフトウエアなので、インストール方法を解説したページは容易に見つかります。私はquantum ESPRESSO tutorial2. quantum-ESPRESSOのインストールを参考にしました。

wget http://qe-forge.org/gf/download/frsrelease/247/1132/qe-6.2.1.tar.gz
tar xzvf qe-6.2.1.tar.gz
cd qe-6.2.1/
./configure
make all



Quantum ESPRESSO(PWscf)のウエブページを見ると、最新版はGitLabあるいはqe-forgeからソースコードをダウンロードするように書かれています。今回は wget を使って qe-6.2.tar.gz をダウンロードします。

wget http://qe-forge.org/gf/download/frsrelease/247/1132/qe-6.2.1.tar.gz


次にダウンロードされたファイルを展開します。

tar xzvf qe-6.2.1.tar.gz


ファイルが正しく展開された後は、アーカイブは削除してしまって構いません。どこかに保存しておいたほうがいいかもしれませんが。

rm qe-6.2.1.tar.gz


新しく作られたフォルダへ移動し、コンフィグを実行します。

cd qe-6.2.1/
./configure


configure: success と表示されれば成功です。Intel Fortran Compiler または gfortran がインストールされていれば、基本的には上手く行くはずですが・・・

いよいよ make します。単純に make とだけ端末でタイプすると make のオプションが表示されます。2. quantum-ESPRESSOのインストールでは make pw pp ph で充分と書かれているのですが、私はmake allとしてしまいました。

make all


途中でいくつか warning がでますが bin/ ディレクトリを見てみるとちゃんとバイナリファイルが出来ているようです。

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Kelvinの公式でSeebeck係数

AkaiKKR(machikaneyama)で計算された状態密度から Kelvin の公式を利用して、遷移金属のゼーベック係数を計算しました。
\begin{equation}
S = - \frac{1}{|e|}\frac{\mathrm{d}\mu}{\mathrm{d}T}
\end{equation}
ここで S はゼーベック係数、 e は電気素量、 μ は化学ポテンシャル、T は絶対温度です。結果はそこそこ良く実験値を再現しました。

Kelvin.png
Fig.1: Kelvinの公式で計算されたゼーベック係数(実線)と実験から得られた文献値(丸シンボル)。パラジウム(赤)、プラチナ(青)、タングステン(緑)、モリブデン(黒)。



ゼーベック係数


ゼーベック係数(熱電能)は、以下の式で表されます。

\begin{equation}
S = \frac{1}{eT}\frac{K_1}{K_0}
\end{equation}
ここでKn
\begin{equation}
K_n = \int_{-\infty}^{\infty}\sigma(\epsilon)(\epsilon - \mu)^{n} \left( - \frac{\mathrm{d}f}{\mathrm{d}\epsilon}\right) \mathrm{d}\epsilon
\end{equation}

この式の中の σ(ε) はエネルギーに依存する電気伝導度とでも呼ぶべきもので、これを具体的に計算するには、通常のバンド計算から得られる電子の群速度に加えて、電子がどのように散乱されるかを表す散乱時間も必要になります。これは不可能ではありませんが、結構大変です。

これに対して熱電材料の物質科学―熱力学・物性物理学・ナノ科学 (物質・材料テキストシリーズ)では、とても簡単な近似式として Kelvin の公式を示しています。
\begin{equation}
S = - \frac{1}{e}\frac{\mathrm{d}\mu}{\mathrm{d}T}
\end{equation}
Scilabで金属の化学ポテンシャルに書いたとおり、金属の状態密度さえ分かっていれば化学ポテンシャルは計算できるので、バンド計算的には、とても簡単な手法です。(というか、これで精度よくゼーベック係数が計算できるのなら、群速度とか散乱時間とか一体なんだったのという感じ)

計算手順


まずAkaiKKRで状態密度を計算しました。2500 K 程度なら化学ポテンシャルの大きさもたいしたこと無いはずなので ewidth を小さくして計算すべきですが、雑な計算ということで価電子を全て含むエネルギーとしました。

c------------------------------------------------------------
go data/Pt
c------------------------------------------------------------
c brvtyp a c/a b/a alpha beta gamma
fcc 7.41 , , , , , ,
c------------------------------------------------------------
c edelt ewidth reltyp sdftyp magtyp record
0.001 0.9 sra mjw nmag 2nd
c------------------------------------------------------------
c outtyp bzqlty maxitr pmix
update 4 200 0.023
c------------------------------------------------------------
c ntyp
1
c------------------------------------------------------------
c type ncmp rmt field mxl anclr conc
Pt 1 1 0.0 2
78 100
c------------------------------------------------------------
c natm
1
c------------------------------------------------------------
c atmicx atmtyp
0 0 0 Pt
c------------------------------------------------------------

c------------------------------------------------------------
dos data/Pt
c------------------------------------------------------------
c brvtyp a c/a b/a alpha beta gamma
fcc 7.41 , , , , , ,
c------------------------------------------------------------
c edelt ewidth reltyp sdftyp magtyp record
0.001 1.2 sra mjw nmag 2nd
c------------------------------------------------------------
c outtyp bzqlty maxitr pmix
update 20 200 0.023
c------------------------------------------------------------
c ntyp
1
c------------------------------------------------------------
c type ncmp rmt field mxl anclr conc
Pt 1 1 0.0 2
78 100
c------------------------------------------------------------
c natm
1
c------------------------------------------------------------
c atmicx atmtyp
0 0 0 Pt
c------------------------------------------------------------


Pt-DOS.png
Fig.2: プラチナの状態密度


次に計算された状態密度から、電子の数密度neを計算します。
\begin{equation}
n_e = \int_{-\infty}^{\infty}D(\epsilon)f(\epsilon, T)\mathrm{d}\epsilon
\end{equation}
ここでフェルミ分布関数は以下のようになります。
\begin{equation}
f(\epsilon, T) = \frac{1}{\exp \left(\frac{\epsilon - \mu(T)}{k_B T} \right) + 1}
\end{equation}

電子の数密度neは温度に関わらず一定なので、絶対零度 T = 0 (K) のときの電子数密度 ne0 をまず計算します。フェルミ分布関数はこのとき ε < εF で f(ε, 0) = 1, ε > εF で f(ε, 0) = 0 なので
\begin{equation}
n_{e0} = \int_{-\infty}^{0} D(\epsilon) \mathrm{d}\epsilon
\end{equation}
です。

あとは以下の条件を満たすように非線型方程式ソルバで、化学ポテンシャルμを求めます。
\begin{equation}
\int_{-\infty}^{\infty}D(\epsilon)f(\epsilon, T)\mathrm{d}\epsilon - n_{e0} = 0
\end{equation}

化学ポテンシャルが計算できたら、これを数値微分します。
\begin{equation}
\frac{\mathrm{d}\mu}{\mathrm{d}T} \sim \frac{\mu(T+\Delta T) - \mu(T - \Delta T)}{2\Delta T}
\end{equation}

clear;

// *** 物理定数 ***
// アボガドロ数 (/mol)
na = 6.0221413E23;
// 1 (Ry) = 2.179872E-18 (J)
eRy = 2.179872E-18; //(J)
// リュードベリ原子単位系でのボルツマン定数
// Boltzmann constant kB = 1.3806488E-23 (J/K)
kB = 1.3806488E-23 / eRy; // (Ry/K)
// 電気素量
chage = 1.60217662E-19;

// *** 状態密度の読み出し ***
X = fscanfMat("Kelvin-Pt-calc.txt");
Edat = X(:,1);
Ddat = 2 * X(:,2);

// *** 計算用 ***
// エネルギー
E = linspace(min(Edat), max(Edat), 10000);
// 温度
tstart = 10; tstep = 10; tend = 2500;
T = [tstart:tstep:tend];
// 状態密度
D = interp1(Edat, Ddat, E, "linear");

// *** フェルミ分布関数 ***
function fermi = fermi(mu, energy, temp)
fermi = 1 ./ (exp((energy - mu) ./ (kB * temp)) + 1)
endfunction

// *** フェルミ分布関数 ***
n = intsplin(E, (D .* fermi(0, E, 0)));
function y = f1(x, temp)
y = intsplin(E, D .* fermi(x, E, temp)) - n
endfunction

// *** 化学ポテンシャル ***
Snum = ones(T);
for i = 1:length(T) do
temp = 1.01 * T(i);
mu1 = fsolve(0, f1);
temp = 0.99 * T(i);
mu2 = fsolve(0, f1);
// 数値計算による電子比熱
Snum(i) = - eRy * (mu1 - mu2) / (0.02 * T(i)) / chage;
end

// 数値計算による電子比熱
plot(T, 1E6 * Snum, "-b");
Y = fscanfMat("Kelvin-Pt-lit.txt");
plot(Y(:,1), Y(:,2), ".b");

// *** グラフの装飾 ***
xlabel("Temperature (K)");
ylabel("Seebeck coefficient (uV/K)");
xgrid(color("gray"));


Sommerfeld展開


Scilabで金属の化学ポテンシャルでは Sommerfeld 展開から得られた化学ポテンシャルが以下のように書かれるとしています。
\begin{equation}
\mu = \epsilon_F - \frac{\pi^2}{6}k_B^2 \frac{D'(\epsilon_F)}{D(\epsilon_F)}T^2
\end{equation}
したがって、その温度微分は以下のようになります。
\begin{equation}
\frac{\mathrm{d}\mu}{\mathrm{d}T} = - \frac{\pi^2}{3}k_B^2 \frac{D'(\epsilon_F)}{D(\epsilon_F)}T
\end{equation}
状態密度が鋭く変化している(D'(εF)が大きい)ほど大きなゼーベック係数を持つことが分かります。

関連エントリ




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付録


このエントリで使用したファイルを添付します。ファイル名末尾の".txt"を削除して、"_"を"."に変更すれば使えるはずです。(参考:ねがてぃぶろぐの付録)


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